新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

女王の三大戯曲、第二作

 ミステリーの女王アガサ・クリスティは、小説の他にいくつかの戯曲も遺した。小説のTVドラマ化や映画化も多いのだが、もともと戯曲として書かれたものにはそれなりの風情もある。1950年代、女王の地位を不動にし水準以上の力作を作者が書いていたころ、全7作品中の「三大戯曲」と呼ばれる作品も発表されている。

 

「ねずみとり」 1952年 先月紹介済み

検察側の証人」 1953年 本書

「蜘蛛の巣」 1954年 コミカルな犯罪物語と言うが、未入手

 

 本書は、三幕四場で構成される法廷舞台劇で、台詞・ト書きはもちろん、舞台装置の配置や特徴まで、ち密に書き込まれている。さらに、舞台劇としてどの役は省略できるとかどの役はダブルキャストにしてもいいとの注意書きまである。

 

 主な登場人物は、

 

・レナード 被告人、優しくイケメンだが弱気な英国青年

・ローマイン ドイツからレナードについてきた年上妻

・ロバーツ卿 勅撰弁護人

・マイアーズ 検察官

・ウェインライト 裁判官

 

 である。第二次世界大戦後ドイツから引き揚げてきたレナード青年と妻のローマインは、ロンドンで生活に困窮していた。生活能力はないが人にやさしいレナードは、ある金持ち夫人を助けたことから親しくなり、一人暮らしの彼女のところを訪問するようになっていた。

 

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 しかしある日夫人が殺され、夫人宅の家政婦が現場でレナードの声を聴いたと証言したことから、レナードは容疑を掛けられる。確かに夫人宅は訪問したが殺害時刻には自宅に戻り妻と2人で食事をしていたとレナードは主張するが、逮捕され殺人犯として裁かれることになる。無罪を信じて弁護の依頼を引き受けたロバーツ卿だが、検察官はローマインを証人として召喚しレナードのアリバイはないと証言させる。

 

 これも「ねずみとり」同様ロングランとなった戯曲だが、発表直後1957年に映画化もされている。ロバーツ卿をチャールズ・ロートンアカデミー賞俳優、1928年に舞台でポワロを演じている)、レナードをタイロン・パワー、ローマインをマレーネ・ディートリヒが演じた「情婦」で、監督をビリー・ワイルダーが務めた。

 

 解説にある通り「二転三転の法廷劇」で、冗長になるかもしれない背景描写がないぶん、生々しかったです。