新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

第三者委員会の問題、このケース

 先月、会計学者八田進二著「第三者委員会の欺瞞」を紹介したが、その中に引用されていなくて、でも何か大きな事件があったなと思っていた。ふと思いだしたのが本書(2016年発表)。今沢真氏は毎日新聞社の記者、本書発表当時、有料ニュースサイト「経済プレミア」の編集長兼論説委員だった。

 

 この時点から7年経った今でも、大手総合電機(僕が学生の頃はこの呼称だった)東芝の経営は迷走している。上場廃止・2分割・3分割などの方針が揺れて、綱川社長退任が先週も発表されている。その迷走が始まったのが2015年の5月、突然「2014年度決算発表延期、不適切会計、配当見送り」の報が流れた。

 

 筆者の「経済プレミア」は、東芝のその後の発表等を追い、いくつもの記事を掲載した。例えば遅れに遅れた決算発表があった11月には、

 

・歴代社長への損害賠償、たった3億円で説明もなし

・広報丸投げ、説明責任果たさぬ役員の旧態依然

・役員調査委員会の報告に潜む「室町体制」への不安

 

 と立て続けにTOP記事を掲げている。同サイトの閲覧数の多かった記事ベスト20には、この関連記事が4本も入った。結局サイトの東芝関連記事は30にのぼり「東芝問題レポート」が出来上がった。それを加筆・編集したのが本書である。

 

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 2015年に表面化したが、リーマンショック以前から同社の不正会計は続いていた。「チャレンジ」という呼称の利益目標は、実態からかけ離れていても未達は許されなかった。本書に半導体とPCの事業例が挙げてあるが、どちらの事業も21世紀になっては難しいものだったことは、僕自身が経験している。各事業部門は水増し等の不正会計をせざるを得ず、TOPもそれを知っていたはずだ。

 

 混乱を収拾する目的で導入された「第三者委員会」も、ちゃんとした報告は出来なかった。筆者は3点、最も重要な疑問に触れないひどい報告だという。それは、

 

・西田会長と佐々木社長の激しい対立

ウェスティングハウス(WH)の経営問題

新日本監査法人の責任

 

 の3つ。会長・社長の確執は公知の事実だったし、無謀とも言われたWH社買収は「のれん代」を回収するめどは立たなかった。不正会計を見逃した監査法人にはその資格があるのかと、株主に詰め寄られていた。

 

 社外取締役ふくめ、ガバナンス体制が全くなかった事例です。それを第三者委員会は追及できませんでした。「欺瞞」と言われても仕方ないでしょう。