古くは「外套と短剣」のスパイスリラーがあり、ジョン・バカンの「39階段」以降隆盛となった英国のこの手の作品群。「007」様の派手なアクション映画も増えて、一時期非常に増えた。しかし冷戦終結とともに全体的に低調になり、今は「もっとリアルな諜報機関もの」が主流になった。1984年発表の本書は、冷戦期英国の「B級スパイスリラー」。作者のディビッド・ゲシンはウェールズ在住の作家。本書以外の著作についての情報はない。
主人公のハローランは引退間際の諜報員、世界最強の諜報機関として恐れられる<オメガ・セクション>のNo.1である。愛用の拳銃はS&Wの.41口径マグナム。オメガマンを殺したヤツはそれを吹聴できるほど長生きしない・・・と裏表紙にあって、その紹介文でもうコミックスパイかと思った。MI-6、Mi-5のほかに英国がそんな諜報機関を持っているはずもなく、そこのNo.1の得意技がマグナム拳銃では、底が割れている。
ロンドンの一角で野良猫と暮らすハローランに、急な呼び出しがかかった。親友でもあり引退した先輩ジャック・レインが死んだという。ウェールズの地で独自捜査をしていて何者かに捕まったらしい。死体からは大量の自白剤が検出された。ジャックは元空挺隊員、ブローニングGP35を愛用していて、拳銃は見つかっていない。ジャックの死の背後に大きな影を見たハローランは直ちにウェールズの田舎町に飛んだ。本筋とは違うのだが、イングランドとはまったく違う(僕には未知の)ウェールズの風景や人々の生活が面白い。ジャックはしばらく前にこの街で不審死した米国娘のことを探っていたらしい。娘はCIAのミッションの一部だったのだ。現地の警察も実業家たちも怪しい中、ハローランは何者かに拉致されてしまう。そこで彼は、ジャックのブローニングで殴られた。
その後チューリッヒにも舞台は展開するが、リアリティには疑問符がつく。ハローランが200ヤード先の敵をマグナムで打ち倒すなど信じられない。このようなスリラー、まだ生き延びていたのですね。本国でも売れているのでしょうか?