新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

女王の三大戯曲、第三作

 先々月「ねずみとり」、先月「検察側の証人」を紹介したミステリーの女王アガサ・クリスティの戯曲第三弾が本書。1956年の作品で、これもロングラン公演を達成しているし、日本でも上演されていると解説にある。

 

 構成は3幕4場で、場面はケント州の邸宅<コップルストーン邸>の客間だけである。主人公は、邸に住む若い奥様クラリサ・ヘイルシャム=ブラウン。珍しい苗字だが、夫は外務省の高官でヘンリーという。ヘンリーには別れた妻ミランダと2人の間に産まれた娘ピバがいる。離婚のときヘンリーはピバの親権を取って、ミランダを自由にした。ミランダはすぐにオリバーという若い男と再婚している。

 

 6月のある夕べ、邸にはクラリサの叔父ローランド卿やヒューゴー・バーチ判事らの重鎮も集まってきていた。多分パーティの予定だったのだろう、執事夫妻はディナーの支度に忙しい。この邸は破格の値段で借りられたもので、古風な家具もいっぱいある。庭も素晴らしいもので、専属の庭師を雇って樹木の世話や野菜なども作らせている。

 

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 しかしヘンリーが突然帰宅、東欧の某国から重要人物がやってくるので、今夜はその対応をしなくてはいけないという。大臣がお忍びで先方に逢いたいというので、選ばれた場所が<コップルストーン邸>。

 

 驚くクラリサをしり目に、ヘンリーは要人を出迎えに行ってしまった。残されたクラリサの前にオリバーが現れて「ミランダがピバと暮らしたいと言っている」と告げる。冗談じゃないと怒るクラリサは大女の庭師ミス・ピークの助けを借りてオリバーを追い出すのだが、オリバーは日が暮れてから戻ってきて何かを探し始める。そのオリバーを何者かが殴り倒し、オリバーは死んでしまった。死体を発見したクラリサは、死体を隠してコトをおさめようとするのだが。

 

 解説では「傑作クライム・コメディ」とあるのだが、コメディというのには違和感がある。まあ演出次第でどうにでもなるのだが、十分シリアスにできる脚本だと思う。作者らしいち密なトリックや手掛かりがちりばめられていて、俳優がこのネタをどう演じるだろうかと考えるのも楽しみだ。

 

 戯曲にはト書きと台詞しかないので、文字数は少ないのですが立派な「長編ミステリー」でした。きっと作者は戯曲を書くこともすごく好きだったのでしょう。