新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

法曹界の中のさらに狭い世界

 日本のミステリーでも、法廷ものと言えそうな作品もいくつかある。米国では陪審員制度があって、悪徳弁護士(ペリー・メイスンのことじゃないよ)が詐術で素人の陪審員から無罪評決を出させるシーンも絵になる。しかし日本ではプロの裁判官が判決を下すのでそんな詐術は使えないから、法廷ものは少なかった。それでも10年ほど前から裁判員制度ができて、素人が刑事の重大事件で有罪・無罪どころか量刑まで決めるようになった。その影響で、法廷ものミステリーが増えたかどうかは分からないが。

 

 検察官や弁護士の仕事は、ミステリーだけではなくいろいろな機会に一端を知ることができたが、分からないのは裁判官の世界。勉強にちょうどいい本だと思って買ってきたのが本書(2019年発表)。著者の高橋隆一氏は30余年裁判官を務め、刑事・民事・家事・少年の全分野の経験がある人。裁判官の「生態」を教えてもらえた。曰く、

 

・裁判官がしないことは、風俗がよいと政治家との付き合い。

・通常3~4年で転勤、大事件は数代の裁判官が引き継ぐ。

・通常裁判官個人は、300件ほどの事件を抱えていて、30件/月が持ち込まれる。

・まともに判決文を書けるのは、20件/月が精一杯。

・検察官は99.9%の勝算が無ければ起訴してこないから、有罪とすれば無難。

・処理件数が多い方が評価される傾向があり、難しい事件は先送り。

・優秀な検察事務官は奪い合い、出世に影響する。

・死刑判決をするときはさすがに悩む。そういう事件が来ないことを祈る。

 

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 司法修習生課程が終わるときに、裁判官・検察官・弁護士の選択をするのだが、

 

・検察官:時間的・肉体的にもハード、特に捜査検事は命がけ。

・弁護士:要は客商売、ビジネスセンスがないとダメ。

 

 なので多趣味な著者は、時間的に一番楽だと思った裁判官の道を選んだとある。法曹界でもさらに狭い世界なので、上司の顔色ばかり窺う「ヒラメ裁判官」も多いという。相対的に狭ければ狭いほど、外部との交流が少ないほど「ヒラメ」は増殖する。いわゆる「ヤメ検」は知っていたが「ヤメ判」というのもあるらしい。しかし弁護士や検察官から裁判官になる道がないのは問題ではなかろうか?

 

 霞ヶ関もかつては天下りはあれど中途採用はない世界でしたが、今は「リボルビングドア」も増えています。法曹界も、裁判官の世界にも外部との人材流通するドアが必要なのではないでしょうか。