新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

アイロニカルなフレンチ・ノワール

 1956年発表の本書は、フランス作家ノエル・カレフの代表作。作者は同年に「その子を殺すな」でデビュー、パリ警視庁賞を受賞している。本書は翌年にはルイ・マル監督で映画化もされ、今となっては映画の方が有名かもしれない。さらに1958年には、創元社が邦訳を出版。これも異例の速さと言えよう。

 

 事業資金に困って妻の兄のカネを押領し、高利貸からもカネを借りて行き詰った輸入業者経営のジュリアンは、パリの自社と同じビルにいる高利貸を自殺に見せかけて殺し、負債の清算を計った。秘書を使ってアリバイを作り、嫉妬に狂って電話してくる妻ジュヌビエーヴも利用した完全犯罪は成功直前までいった。

 

 しかし帰宅しようとした車の中で、現場に残したあるものを思い出し、隠ぺいしようとビルに戻った。そこで上りエレベータが途中で警備員が電源を落としたことで停まり、ジュリアンは閉じ込められてしまった。

 

 一方カネに困っているフレッドとテレザは、ジュリアンがエンジンをかけたまま残した車を盗み、郊外へ逃避行を計る。ジュリアンの車、コート、拳銃を手にいれた2人はホテルにジュリアン夫妻名義で投宿する。

 

        

 

 ジュヌビエーヴは夫が愛人と逃げると考えてオフィスビルにやってきて、ジュリアンのコートを着て女と車に乗ったフレッドをジュリアンだと思い込む。ジュリアンがエレベータの中で悪戦苦闘していることも知らずに・・・。

 

 ホテルではフレッドたちが隠れるように投宿していることから、夜逃げされるのではと警戒している。実際文無しの彼らは、自暴自棄になりつつあった。そこに豪華な車とキャンピングカーでやってきたのが、ブラジル人のペドロ夫婦。彼らも悩みを抱えているのだが、フレッドたちの目には「外国人の金持ちがフランスを我が物にしている」としか映らない。ついにフレッドはペドロ夫婦をジュリアンの拳銃で射殺、カネを奪ってパリに戻った。

 

 36時間経って電源が入りエレベータから脱出したジュリアンは、証拠を隠滅し完全犯罪を完遂するのだが、ペドロ夫妻殺しで逮捕されてしまう。エレベータに閉じ込められていたことも理由も言えず、ジュリアンは法廷に引き出される。

 

 完全犯罪が完全だったゆえに破滅するアイロニカルなノワールでした。一方、ジュリアン夫婦、フレッドたち、ペドロ夫婦の愛の物語でもあります。こういう話は、子供の頃に読んでも分かりにくいですよね。