新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

全ての歴史は現代史である

 NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が好調だという。何十年も大河ドラマを見ていない僕が見るくらい、三谷脚本の面白さは抜群だ。鎌倉幕府創設の舞台裏で、どんなことが起きていたか気づかされることも多い。

 

 ただ歴史というのは、一辺を切り取っても十分な理解は難しい。エピソードを見て満足していてはいけないということ。本書は歴史学者である本郷和人東大教授の、「通史で見る歴史学」のエッセンスである。筆者は「全ての歴史は現代史である」と、時間軸に沿った流れで歴史を理解せよと仰る。本書には、7つのジャンルが示されている。各々、古代から明治までこの7ジャンル(天皇・宗教・土地・軍事・地域・女性・経済)の視点で通してみることが重要だという。

 

 例えば「天皇」の項では、古代に一つの豪族が大きくなって近畿一円を勢力下においたヤマト朝廷は、その範囲でだが、軍事・政治・経済・祭祀の全てを司っていた。しかし「壬申の乱」以降、軍事力が衰退(不要ともいう)、政治力を摂関家に奪われ、経済と祭祀が残った。平安時代後期には、武士(平家や源氏)が登場し軍事力が復活するが天皇家のもとには戻らない。

 

        

 

 源平合戦を制した源氏(と坂東武者)は、軍事と政治・経済の相応を握ったが、天皇家には一部の政治・経済は残った。武家に対して天皇家は何度か(後白河&後鳥羽)奪還の企てを起こすがいずれも長続きせず、江戸時代には本当に祭祀のみになってしまった。こういう流れを知っていると、頼朝がなぜ鎌倉を離れなかったのかが理解できる。京都で幕府を開いた足利家は、政治闘争にかまけて貴族化し力を失っていく。その轍を踏まぬように、家康は江戸を首都とした。

 

 面白いエピソードもいくつか紹介されている。鎌倉幕府は朝廷を監視するため「六波羅探題」を置いたが、その差配地域は尾張まで。三河以東は幕府が直接差配したとある。同じ愛知県でも、尾張三河の気風が違うのはそういう背景があったという。

 

 あとがきで「タコツボ的な文系研究」は、すぐ何かの役に立つわけではないと、筆者は自虐的に述べている。文系研究も学際研究や横断的研究がもてはやされる(カネが付く)が、一つの事をタテに掘り下げていく研究がないがしろにされつつあると、危機感を募らせている。

 

 その危機感は理解できます。膨大な歴史研究の「ツボ」という形で示してくれた本書は、非常に意味のあるものでした。