新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

マネーというビッグデータ

 意外なことだが、一橋大学野口悠紀雄名誉教授の著作を紹介するのは初めてらしい。Web上の記事(現代ビジネス等)をしょっちゅう拝見しているので、著作も呼んだつもりになっていたらしい。本書は2021年末に発表されたもの。もうBook-offの110円コーナーに並んでいた。

 

 「DATA Driven Economy」の時代になったことは、僕自身が重々承知している。著者はデータの中でも、マネーのデータに着目して本書をまとめている。人流・物流・金流のうち、確かに金流を抑えれば、他の2つも自然と見えてくる。

 

 ビッグデータとして最初に注目されたのは、Web上の検索回数や検索対象のようなもの。その人の嗜好に合わせたターゲティング広告などに応用された。しかしマネーのデータはそれ以上に価値があると筆者は言う。匿名で使える現金の決済シェアは下がっていて、クレジットカード・電子マネーなどの比率が増えている。これらは何らかの形で使用した人が分かる仕組みだ。

 

        

 

 したがって購買履歴などを精査していけば、利用者のプロファイリングが容易になる。個人情報保護は必要だが、匿名化したビッグデータとして活用するなら社会を効率化することもできる。

 

 本書では、中国の電子マネー等による「個人の信用スコアリング」などの活用例(!)にも触れ、暗号通貨・デジタル通貨・分散型金融などの最前線を紹介している。

 

1)巨大IT企業が独自通貨を出すことで、従来送金(決済)にしか使われなかった電子マネーが、融資などにも使われるようになったこと

2)各国中央銀行も(現状に安住できず)公的なデジタル通貨で巻き返そうとしていること

3)中央に管理者がいない分散型金融(DeFi)が、低コストを武器に台頭しようとしていること

 

 などを挙げている。従来通貨は重要な国の主権だったのだが、1)では企業がそれにとって代わろうとし、3)では管理機関すら不要(実態はデジタル空間の機関)になってしまう。もちろん全てのケースについて法整備は不十分で、マネーロンダリングなど悪事に利用される可能性は少なくない。現にランサムウェアがこれだけはびこったのも、暗号通貨払いで匿名(闇の?)決済が可能になったせいが大きい。

 

 著者は、特に日本の銀行に厳しい目を向けています。利ざや収入も手数料収入も先行き不透明で、どうやって食っていくのか。銀行淘汰は必須ということでしょうね。