新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

あまりに早くやって来る夕闇

 1990年発表の本書は、エド・マクベイン「87分署シリーズ」の第42作目。1950年代、まだ米国が元気だったころから始まったこのシリーズも、徐々に都会の退廃の色が濃くなってきた。ニューヨークをモデルにしたらしい架空都市アイソラでは、移民の地区が点在しその多くは貧しい。ただ初期の頃は貧しくても温かい地区だったが、このところは荒廃が進み教区も乱れ、麻薬の汚染もひどくなっている。

 

 春の宵、教会の庭で神父が刺殺されていた。担当することになったのはキャレラとホース。キャレラは、自分はいつから教会に来ていないのだろうといぶかりながら捜査を始める。教会周辺には、

 

・麻薬取引をする少年たち

・その中で起きた黒人少年リンチ事件

悪魔崇拝<生まれざる者の教会>の教祖と信者たち

・殺された神父と寄付のことで険悪になった男

 

 などが怪しい動きをしている。満足に食べることもできないスラムの少年たちにとって、麻薬取引の手先は美味しいアルバイト。「神は死んだ」とエロチックな儀式を繰り返す悪魔教の教祖のもとには、多くの少年少女もやってくる。やがてキャレラは、少年たちが教会を麻薬の隠し場所に使っていたことを突き止めるが、神父自身も大きな悩みを抱えていたこともわかる。

 

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 教会と無縁なキャレラと違い牧師の息子であるホースだが、神父の秘書をしていた美女クリスティンと知り合いデートを重ねるようになる。堅物イメージのあるホース刑事だが、女優の卵でもある彼女の奔放な言動に振り回され続ける姿が可愛い。

 

 このシリーズ、複数の事件を織り交ぜるのが特徴だが、本書のもう一つの事件はウィリス刑事の恋人マリリンに関するもの。第39作「毒薬」で登場した南米から来た元売春婦の美女だが、母国から200万ドル相当の金を持ってきていて、それを取り返そうとするギャング2人組に襲われ脅される。困ったマリリンは麻薬取引でカネを稼ぎ、使ってしまった穴埋めにしようとするのだが。

 

 本書には、教会では日に7度の祈り(朝課・一時課・三時課・六時課・九時課・晩課・終課)をすることを教えてもらった。夕べの祈りが題名の「晩課」。事件を解決しながらも、キャレラはアイソラには「あまりに早く夕闇がやってくる」と嘆く。

 

 作品のトーンが初期のユーモアっぽいものから、哀愁の濃いものに移ってきたようです。あと手に入れているのは2冊だけになりました。