新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

墓守インホテプ家の災厄

 1945年発表の本書は、アガサ・クリスティーの時代推理小説。作者の二番目の夫マーロワンは考古学者で、作者もエジプトなどにはよく出かけていた。名作「オリエント急行の殺人」も、ポワロがエジプトから帰る列車内での事件。「メソポタミヤの殺人」など中近東を舞台にした作品は多い。しかし本書は時代を4,000年ほどさかのぼった、エジプトの豊かな地方に舞台を設定している。

 

 ナイル川を臨むこの地の墓守家の長インホテプには、3人の息子と1人の娘がいた。彼らを産んだ2人の妻はすでになく、嫁いでいた娘レニセンブも夫に先立たれて孫を連れて戻ってきた。3人の息子は、

 

・長男ヤーモス 真面目だが鈍重な性格で、勝気な妻サティペイの尻に敷かれている

・次男ソベク 利発だが傍若無人でインホテプの命令に背いてばかり

・三男イピイ 彼だけ母親が違いインホテプが目にかける分増長が著しい

 

 で、インホテプはまだ後継者を決めていない。とりあえず北の街(カイロあたりか?)に出かけるにあたり、ヤーモスを代理人に指名したが諍いは絶えない。出戻ったレニセンブも兄弟の(妻も含めた)摩擦を心配して祖母のエサや大番頭のホリに相談するのだが、いい知恵がない。

 

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 そこに3ヵ月ぶりに戻ってきたインホテプが、北の街から若くて美しく魂胆を秘めた愛妾ノフレトを連れてきたことから、家庭内に危険な空気が充満する。ノフレトは贅沢を尽くしビジネスにまで口を出す。ヤーモスやソベクはビジネスの方法でインホテプから叱責され、ノフレトに敵意を抱く。そんな中、崖の小道からノフレトが落ちて死に、事故とされたものの一家の間には困った雰囲気が漂う。そしてノフレトが死んだその場所で、今度はサティペイが転落死をする。死に際に残した言葉は「ノフレトが」だった。

 

 さらにノフレトの姿をした女が酒瓶に毒を入れて、ヤーモスとソベクを殺そうとする。一家はノフレトの亡霊に呪い殺されてしまうのか・・・。レニセンブはエサとホリの助けを借りて、犯人を突き止めようとするのだが。

 

 本筋とは関係ないのだが、この時代の「書記」という仕事が面白い。「小麦○○」とか「牛○頭」などと書類に書く能力を持っている。しかし現場の人は「実際に牛を世話しているわけではない」と労働価値を低く見ようとする。でも書類がないと所有権が認められないのだ。リアル空間とサイバー空間の落差は、この時代にもあったようですね。