光人社NF文庫の兵器入門シリーズ、今月は「戦艦」である。1940年代に海の主役を「空母機動部隊」に譲ってからも、海軍マニアに夢を抱かせる艦種といっていい。架空戦記作家横山信義は、多くの作品で「空母機動部隊が潰し合った後の戦艦同士の決戦」を描いている。僕も多くのシミュレーションゲームで太平洋戦争を戦い、空母が主力と知りつつもつい戦艦隊を編成して、泊地への殴り込みを考えてしまう。
太平洋戦争開戦時、帝国海軍は戦艦6隻、高速戦艦4隻を保有していた。開戦後、46cm主砲の戦艦「大和」「武蔵」が配備される。第一次世界大戦時、英独両海軍はジェットランド沖海戦で未曽有の艦隊戦を戦い、痛み分けた。垂直方向の防御の弱い巡洋戦艦の欠点が露呈したが、帝国海軍は艦齢8年以内の戦艦8隻、巡洋戦艦8隻の「八八艦隊」の整備を目指した。
戦艦「長門」「陸奥」は、その戦艦1~2番艦として竣工しているが、のちの海軍軍縮条約によって、巡洋戦艦の1~2番艦である「赤城」「天城」、戦艦3~4番艦の「加賀」「土佐」は廃艦となった。このうち「赤城」と「加賀」は航空母艦として竣工し、「土佐」は標的艦として活用された。
当時の日本の経済状況から考えれば、所詮見果てぬ夢だった「八八艦隊計画」だが、巡洋戦艦5~8番艦には46cm主砲8門搭載の予定があった。「日本海海戦」の戦訓を尊ぶ帝国海軍は、少しでも口径の大きい主砲を積み高速で機動することで敵戦艦を撃破しようとした。「長門」級の40cm主砲8門、最高速度23ノットという公表値には嘘があった。実態は、主砲口径は41cm、最高速度は26ノットだった。
ライバルと見られていた米国の新造戦艦「コロラド」は40cm主砲8門、最高速度21ノットだったから、公表値でも劣った仕様ではない。しかしその後米国が強大な工業力で産み出す新戦艦には、とても及ばなかった。
・ノースカロライナ級 40cm主砲9門、27ノット
・アイオワ級 40cm主砲9門、33ノット
実際にはまみえなかったが、アイオワ級に対しては、
・大和級 46cm主砲9門、27ノット
でも勝ち目は薄かった。帝国海軍の12戦艦は、一番活躍した高速戦艦金剛級から沈められていき、燃料がなく動けない「長門」だけが残った。「長門」もビキニ環礁の原爆実験で沈むことになる。
20世紀前半の一時期「海の王者」だった戦艦史、改めて確認しました。