新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

サスティナビリティ経営は総合格闘技

 2020年発表の本書は、サスティナビリティ経営・ESG投資アドバイザーの夫馬賢治氏が、SDGsなどの目標に向けた産業界の動向や、現状の見通しをまとめたもの。サスティナビリティ経営はすでにイメージアップ戦略ではなくなり、多くのグローバル企業が本気で取り組み始めたという。日本ではまだ「欧州の陰謀」説があるのだが、そうではなく地球の将来を守るために必要なことと、これらの企業では認識されているし、機関投資家などもそれを後押ししている。

 

 サスティナビリティ経営の議論は、総合格闘技のようなものだと筆者は言う。関わってくる学問は、経営学・金融学・経済学・法学・政治学会計学・財政学・社会学・心理学・哲学・環境学・工学・化学・情報学・生物学・医学・薬学など多岐にわたる。

 

 地球市民が対応しなくてはいけないリスクとして、印象的な言葉を引用すると、

 

        

 

・このままだと、2300年には地球の平均気温が5度近く上がる

・すると、海面上昇は5mほどになり、東京・大阪・名古屋の相当部分が沈む

・大豆、牛肉、パーム油、カカオ等の生産のために森林が削られていく

・漁業者の乱獲もあり、日本近海の魚の多くが絶滅に瀕している

・日本の食糧自給率は、カロリーベースで4割に満たない

 

 などだ。興味深かったのは感染症の項目。根絶したという天然痘ウイルスは、米国(CDC)とロシアの研究機関が保管しているという。これがロシアの生物兵器になるリスクを感じてしまった。

 

 WEFのリスク分析表もあった。発生確率とインパクトの2次元表示だが、サイバー攻撃がかなり右上(確率もインパクトも高い)にあって、これより右上なのは、

 

・異常気象

・気候アクション失敗

・自然災害

生物多様性喪失

・水の危機

 

 くらいしかない。サイバー攻撃に比べて、大量破壊兵器は発生確率が僅少、人間による環境破壊はインパクトが小さい。サスティナビリティ経営の一環としてのサイバーセキュリティ対策を認めているわけだ。

 

 大きなトレンドを理解するには適切な書であるが、具体的なデータ、とくに2030年の地球に関する予測値は多くない。これも出版社の側が、売れそうなタイトルを後でつけたのだと思う。それはともかく、大きなリスクを地球が抱えていることは理解できました。これほどのリスクがあると、日本の人口減少も悪いことではないように思いますね。これから産まれてくる子どもたちは大変です。