新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

明石藩主松平公暗殺

 古い映画をNHK-BSで毎日のように放映してくれるのは、本当にありがたいと思う。特に戦争映画を録画することが多いのだが、西部劇や時代劇も懐かしくていい。これらの中でも、戦闘シーンが生々しく描かれているのが大好きだ。今回も「本棚」にではないのだが、録画してあった映画についてコメントしたい。

 

 「十三人の刺客」は、1963年12月に封切られた東映映画である。リアルを追求した工藤栄一監督が、片岡千恵蔵など多くの時代劇スターを集めて撮ったもの。なにしろ「鞍馬天狗」の嵐寛寿郎が脇役にまわり、後のスター山城新伍などはちょい役のような扱いだ。一時期売れに売れたチャンバラ時代劇が廃れてきて、東映はこの作品で時代劇の復活を狙ったようだ。あくまでもリアルな闘いを、13人対53人の30分余にわたる死闘として撮影した。細かな振り付けはなく、大枠だけ決めて自由な立ち回りをさせ、手持ちを含む複数のカメラを回して撮影している。

 

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 酷薄なバカ殿明石松平公は、将軍の弟であり来年には老中職就任が内定している。しかし治世は乱れ領地には一揆が多発、あまりのひどさに江戸家老が老中の門前で切腹、藩主の非道を世間に訴えた。しかし幕閣は明石公の罪を表立って問えず、老中は腹心も目付け役島田新左エ門に命じて参勤交代の帰路での暗殺を謀る。

 

 明石藩側でこの動きに気づいたのは、側用人の鬼頭半兵衛。新左衛門とは竹馬の友で道場では好敵手だった侍だ。物語は2人の「策」が火花を散らせながら進んでいく。行列の侍を増やし駕籠を2つ用意する半兵衛に対し、新左衛門は中山道落合宿を丸ごと買い取って必殺の罠をかける。要塞と化した宿場に53騎を誘い込み、封じ込めて弓矢や槍で襲撃する。このあたりの見事さ、作戦・戦術級の時代劇として最高峰のものと思う。

 

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 この作品評価は高かったものの東映の思惑ほどには売れず、時代劇の衰微は止められなかったと関係者は悔しがる。ただ脚本として優れていたことは、その後TVドラマで2度、映画でも1度リメイクされ、舞台にもなっていることで証明されている。2020年にNHKで放映されたバージョンでは、主演は八代目中村芝翫だった。

 

 それにしても息の長い俳優だと思ったのが、里見浩太朗です。オリジナル版に13人のひとり島田新六郎として準主役で出演、57年後のNHK版では老中土井大炊頭という重要な役を演じていました。