新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

少子化対策の一助になるか?

 「Global & Digital」に反旗を翻す人は少なくないが、高名な学者と言うとエマニュエル・トッド氏が一番かもしれない。ユダヤ系フランス人で、米国型のスタンダードは大嫌いと言う人。歴史学者・人口統計学者であって「女性の識字率が上がると、出生率は下がる」と仰る。

 

 中国ほどではないが日本の少子化もひどくて、合計特殊出生率が2.0近辺まで持ち上げているフランスの努力は以前紹介したことがある。

 

「子ども庁」へのヒント - 新城彰の本棚 (hateblo.jp)

 

 この本以外にも、今話題になっている「こども家庭庁」の施策のヒントはないかと探してみたところ、本棚から出てきたのが本書。2000年発表とちょっと古いのだが、トッド先生ならずとも「歴史人口学」というものが日本にあったことを思い出させてくれた。著者の速水融教授の専門は日本経済史と歴史人口学。その研究のエッセンスを本書で明らかにしている。

 

 筆者らは2つのアプローチで、日本の人口推移を捉えようとしている。ひとつはマクロの視点で、例えば江戸時代の享保年間に始まった「全国国別人口調査」。幕府は各国に小さな子供と武士を除いた人口を6年に一度報告させていて、おおむね全人口2,600万人と推定される。享保の飢饉や浅間山噴火などの大災害があると、人口は減ることが分かってきた。

 

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 もうひとつはミクロの視点で「宗門改帳」を利用したもの。美濃の国や諏訪地方では詳細な各戸の履歴が残されていて、これを読み解く手法だ。例えば美濃の国では幼児はそれなりに死ぬものの若い人はあまり死なず、名古屋や京都などの都市に出て行ってしまう(転出超過)ことがわかる。諏訪地方ではこういう出稼ぎ的な移動はなく、江戸中期に大家族(20~30人)から小家族(直系3世代のみ)への転換が進んだという。食糧などに余裕ができ、これまで次男坊などは結婚できなかったのが、独立して子供を産むようになったとの分析だ。

 

 こういうデータ集めや分析に多大の時間がかかり、かつ研究成果がアピールしづらいので「歴史人口学」が発展しないと筆者は言う。特に欧州各国政府は、日本の何倍もの予算を付けてくれるということだ。

 

 このような研究、突き詰めれば少子化対策になるような気もするし、データ集めなども今はもっと楽になっているはず。「こども家庭庁」での検討テーマのひとつになりますかね?