新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

米国軍人ドイツ平原に死す

 2017年発表の本書は、テキサス州で孫たちと引退生活を楽しんでいる元弁護士ウォルト・グラッグが書き下ろした架空戦記。作者は冷戦期に、西ドイツにあった欧州軍司令部に3年間勤務した経験がある。

 

 本書の「歴史」では、2010年頃プーチン大統領が失脚、後継になった独裁者チェニンコがソビエト連邦を復活させ書記長と名乗った。ワルシャワ条約機構も復活し、NATOと対峙している。ウクライナポーランドバルト三国などの情勢は伝えられていないが、チェコワルシャワ条約機構の一員。

 

 最前線になっている統一ドイツでは、ソ連の工作で内戦が起き、何とか収拾はしたもののネオナチ政権ができてしまった。チェニンコは少なくとも東ドイツは取り戻したいと考え、ヨヴァノヴィチ司令官に侵攻計画を練らせた。司令官の答えは「ドイツは5日間で占領できる」だった。

 

 チェコドイツ国境に演習名目で集結した100万人規模のソ連軍は、厳寒の時期に荒天を突いてドイツになだれ込んだ。NATO軍(実質米軍)の航空戦力が使えないうちに特殊部隊を送り込んで、米軍の航空基地や通信基地を破壊しようとする。

 

    

 

 天候が回復しても、AWACS管制基地の多くを破壊されて、米軍は制空権をとれない。地上でもM-1戦車やブラッドレー戦闘車は優秀なのだが、T-72BMP戦闘車は10倍の数的優勢で襲い掛かってくる。

 

 将軍ではなく、下級士官や下士官の何人かとその家族が主役として、非常事態に立ち向かう姿がえがかれる。次々と犠牲になってしまう彼らだが、死力を尽くして巨大な敵の足を止めようとする。Su-35対F-35、Mi-28対M-1、Mig-29対パトリオットT-72A-10などの戦闘が延々続く。

 

 なかなかの迫力なのだが、納得できないことも多い。想定されている年代は2020年頃なのだが、まるきりサイバー攻撃のことが取り上げられていない。装備だけは最新のものになっていて、その闘いはうなづけるのだが、もうひとつの戦場サイバー空間は全く扱われていない。

 

 5日で占領の予定が遅延すると、ソ連軍は化学兵器や小型核爆弾まで使います。戦果を挙げ負傷した主役たちも、そんな大量破壊兵器の前になすすべなく死んでいきます。作者が書きたかったのは「米軍人の死にざま」だったかもしれませんが、戦争の経緯には首をかしげてしまいました。