新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

危機は人々を倫理的にする

 本書は以前紹介した「世界史の針が巻き戻るとき」と同じく、ボン大学マルクス・ガブリエル教授にジャーナリスト大野和基氏がインタビューしてまとめたもの。エマニュエル・トッド教授と同様、Global & Digitalに反対する気鋭の哲学者である。

 

EUに感じる違和感の源泉? - 新城彰の本棚 (hateblo.jp)

 

 本書の出版は2021年3月、インタビュー時期は2020年後半で「COVID-19」禍が10ヵ月あまりになったころと思われる。中国は「COVID-19」を抑え込んだが、欧米では感染者や死者が増えて、社会が大きな危機感を持っていたころである。

 

 前著でもガブリエル教授は、利益優先の(ケダモノ)資本主義は終わりを迎えたとし、米国発の巨大ITが人類を支配しようとしていることに気づいて立ち上がるべしと訴えていた。そこに「COVID-19」禍が加わり、社会が危機を迎えた今こそ倫理資本主義の出番だという。世界が「つながりすぎた」ことでパンデミックも起きたし、関連情報が錯綜することで社会全体が動揺し無用な混乱を招いたと言いたいようだ。

 

        

 

 例えば、メディアが毎日「何人の新規感染者、何人の死者」と伝えるのは、徒に不安を煽っているだけだという。ウイルスの特性や日々気を付けることを伝えれば十分なのに、具体的な人数を拡散させるのは問題だ。さらに感染症専門家は「家に閉じこもって人と会うな」というが、それは感染症を抑え込むための専門家のスタンスの押し付けで、経済社会的に弊害が大きい。その通りにしたスペインでは、経済が破綻した。

 

 専門家は経済社会や哲学・倫理などの識者が集まって対策を考える場で、専門家としての意見を言うだけで良く、識者の議論には加わるなという。これは納得できる話だ。

 

 ただ倫理資本主義については、前著同様納得できないことも多い。テスラなどの先進企業を取り上げて、彼らの倫理観は見せかけだと決めつけている。世界全体の調和のとれた発展を目指すのが倫理資本主義で、米国の先進企業などはどう言い訳しても「ケダモノ資本主義」だという。本書ではGAFAの名前こそないが、Netflixが「同社のパンデミック映画は、ウイルスが中国発のケースばかり」と叩かれている。

 

 冒頭「危機は人々を倫理的にする」と、倫理資本主義確立に希望を持っているといいますが、やはり同調できるものではありませんね。