新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

和製サイバー・サスペンス

 本書の著者志駕晃は、本名勅使河原昭。ニッポン放送のディレクター・プロデューサをしている人。50歳を越えてミステリーを書き始め、「スマホを落としただけなのに」で「このミス大賞」の隠し玉賞を受賞している。この作品は、北川景子主演で映画化もされている。これまで8作品があって、2018年発表の本書は「スマホ・・・」シリーズの第二作。

 

 主人公桐野良一は、神奈川県警サイバー犯罪捜査課の刑事。大学でコンピュータ・サイエンスを学んでセキュリティ企業に就職、デジタルフォレンジックの専門家として高給を得ていたが、しばらくして警察に転職した29歳である。刑事とはいえ、格闘や射撃はまるきりだめ。事件の容疑者や関係者のPC、スマホなどを解析して、残ったFileを調べ、消されたものがあれば復元を試み、特殊な処理をしていないかを調査するのが主な仕事。CBSドラマ「NCIS:LA」に出てくる、エリックのような役割である。

 

        

 

 神奈川県警が先ごろ捕えたのが、デリヘル嬢などを殺して丹沢山系に埋めたという連続殺人犯浦井。被害者にネット経由で近づき、そのスマホなどに侵入して犯行の助けにしていたらしい。浦井は5人までは殺害・死体遺棄を認めたのだが、6人目の死体については関与を否定している。

 

 桐野は浦井のPC等から6人目の被害者のデータがないか調べるように指示され、元いたセキュリティ会社で知り合った恋人実乃里とのデートもままならない。PCからはその痕跡が出ず、データを完全消去するツールを使った様子もない。上司の指示で浦井と直接会った桐野に、浦井は他の捜査官にはしなかった供述をする。それは浦井をハッカー(正確にはクラッカーだがここでは馴染みの言葉にしておく)に育てた伝説のハッカーMのこと。闇Webで、浦井はMに死体の捨て方・捨て場まで教わっていた。

 

 サイバー犯罪の手口(クラッキングランサムウェア、仮想通貨窃取など)の知識は、元自衛隊のサイバー部隊にいた伊東寛氏に教わったと巻末にある。

 

国家レベルのサイバー攻撃 - 新城彰の本棚 (hateblo.jp)

 

 多額の仮想通貨の窃取やロンダリング、警察システムに侵入して社会混乱を引き起こすテロ行為、桐野やその周辺に撒かれるハッカーの罠など、勉強になるミステリーだ。サイバーセキュリティに興味がない人も、一度は読んでおかれた方がいいでしょうね。