新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ロンドンのパートタイム殺し屋

 英国作家サイモン・カーニックは、本書(2002年発表)がデビュー作。以後、特にレギュラー主人公を持たずにクライム・サスペンスを書き続けている。本書の主人公デニス・ミルンはロンドン警察の巡査部長。警察に入って十数年で、30歳代半ばの独身男だ。

 

 若い頃に立てこもり犯を射殺してしまったことがあり、罪には問われなかったものの銃器を用いる業務には就けない立場だ。しかし理解ある上司のもとで、有能な刑事として事件捜査にあたっている。デニスにはもう一つの顔があり、それが「殺し屋」。もともと銃の腕前は良く、躊躇せず人を撃てる精神力もある。

 

 表業として葬儀屋を営むレイモンドから依頼を受け、偵察員兼運転手の相棒ダニーと組んで拳銃による殺しをするのが「副業」。対象は「悪人」のみとして、相場はひとりあたり1万ポンド。今回は麻薬密売人3人組をヒットすることになり、首尾よく仕留める。

 

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 その夜、街では一人の少女売春婦がナイフでノドを切られ、下腹部をめった刺しにされるという事件が起きる。翌朝、デニスは本業として売春婦殺しを担当するよう指示される。すでにベテラン捜査官の域に入っているデニスの、過去の事件についての回想が生々しい。家出少女⇒麻薬中毒⇒少女売春の流れ、彼女らに纏わりつくポン引き、少女ばかりを狙うレイプ魔、無罪判決を受けて野放しになったレイプ魔を殺そうとする被害者の父親、少女たちを救済しようとする養護施設・・・ロンドンの闇社会がそこにある。

 

 怒りを込めて少女殺しを追うデニスだが、自身が殺した3人組は税官吏と会計士だったことがわかりショックを受ける。レイモンドに事の真相を正すが、はぐらかされてしまう。その後ダニーが行方不明になり、デニスにも2人組の殺し屋が向けられてきた。警察も3人殺しの容疑者としてデニスを見張るようになって、デニスははめられたことに気づく。

 

 デニスは超人ではないが、殺しで得た報酬を隠し、逃走用の偽パスポートも用意し、派手な遊びもせず、日々の警戒も怠らないなど、周到かつ注意深い生活をしている。危険が迫った時の対処法など、(企業の)リスク管理にも参考となる面もあった。英国小説ながらアメリカンテイストのサスペンス、面白かったです。