新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

陸軍の技術分野を一手に

 光人社のNF文庫「兵器入門」シリーズ、今月は「工兵」である。兵棋演習のコマでは横になったEの文字が付いた分隊コマで、歩兵とスタックして近接突撃を掛けてくると脅威だったのを覚えている。いにしえの話、ローマの軍隊は決して強くなかったが、土木工事・野戦築城能力が高く、当時の世界を制覇することができた。

 

 近代戦では、その守備範囲は飛躍的に増大した。帝国陸軍も、日露戦争以降技術兵科たる「工兵」に多くのミッションを与えてきた。ただ、かけられるリソースは決して潤沢ではなかった。主なミッションを挙げると、

 

・トーチカ等戦場における野戦築城

・道路、線路などの開設、輸送路の維持や運用

・橋梁建設、渡河点の選択

・トーチカ、鉄条網等の防御兵器の無力化

・坑道掘削、軽便鉄道敷設

・飛行場建設

・舟艇機動、海上輸送

・電気工事、通信設備設置運用

化学兵器生物兵器対応

・測量、気象観測

・爆発物処理、地雷探査・処置

 

 などの他に、各種の新兵器を最初に扱うことも期待されていた。ドイツ軍は「突撃工兵」という前線で闘う技術者を持っていて、火炎放射器や対戦車爆薬などの特殊兵器を使ったほか、短機関銃などをふるって歩兵掃討・AFV破壊などをやらせた。士気だけは高いが戦闘力の低いソ連兵にとっては、悪魔のような存在だった。

 

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 帝国陸軍の工兵も、火炎放射器や対戦車爆薬を扱ったが、それほど(武器も兵員も)数が多くなかったのだろう、戦果の記録はあまりない。なにしろ、輜重兵などの補助戦力を兵隊とすら見ていなかったような軍隊である。結局銃剣で決着をつけるつもりなので、工兵や特殊兵器も少なかった。

 

 ただソ連軍の圧力を常に受けていた関東軍では、独自の技術車輛などを開発していた。沼地をフロート付きキャタピラで機動する車輛もあった。それでいてダンプカーやブルドーザの開発は遅れていて、人力に頼る土木作業では島嶼間の航空戦を戦い抜くことは出来なかった。

 

 一方装甲列車のような「戦力」にはリソースを割いたようだ。榴弾砲を搭載、各車両に機関銃を装備しているのだが、これも活躍したという話はない。満州の匪賊を追い払うのが精一杯(匪賊は当然線路のないところに逃げる)だった。

 

 島国日本が無理な大陸進駐をする兵力を持ってしまったことが、本来重要なこういう兵科にリソースを割けなかった理由でしょう。アイデアは一杯あったのですがね。