新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

証拠しか相手にしない

 以前「死の冬」を紹介した「CSIニューヨーク」の邦訳第二作が本書。原本となったのは、2009年に放映されたCBSのTVドラマである。科学捜査班の活躍を描く人気のドラマで、本家はラスベガス、スピンアウトとしてマイアミとこのニューヨークがある。ニューヨーク版のシナリオを任されていたのが、「ロビンフッドに鉛の玉を」(1977年)でデビューしたスチュアート・カミンスキー。惜しくも2009年に亡くなっている。

 

 「死の冬」では零下20度にもなる厳寒のニューヨークが舞台だったが、今度は43度を超える酷暑の8月である。マンハッタンは青森ほどの緯度の島だが、メキシコ湾流のせいか暑さも半端ではないらしい。1990年代のニューヨークは米国でも一二を争う犯罪都市、殺人事件は年間2,000件以上だった。しかし1994年に就任したジュリアーニ市長と後任のブルームバーグ市長がマフィア撲滅を含む犯罪一掃に尽力し、2008年に殺人事件は500件まで減ったという。その陰に本書のモデルとなったニューヨーク市警科学捜査班の活躍があったことは言うまでもあるまい。

 

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 科学捜査班主任マック・テイラー率いるチームが担当するのは、ユダヤ教徒を殺して磔にする連続殺人事件と、両親と娘が刺殺され末息子が行方不明になった事件。加えてチームメンバーのひとりステラ・ボナセーラにストーカーが迫るエピソードがあり、この3つが並行して語られる。TVドラマらしくめまぐるしくシーンが変わるので、似たような名前(ジェイコブ・ジョシュア・シェルトン・シェルドン・・・)が出て来て混乱することもある。

 

 印象的だったのは、マックが容疑者を前にしてその弁護士から捜査のやり方を追求されて反論するシーン。意図的に証拠の分析を曲げたのではないかと問われて、マックは「我々は証拠しか相手にしない」と言い切る。いかに疑わしい行動をする容疑者でも、犯行を自白していようとも、証拠集めや分析に違いが出るわけではないと強調している。

 

 頼りになる捜査官たちだとは思うのだが、少し気になることもある。NCISの場合には海軍軍人が関わったケースで登場するのだが、CSIはニューヨーク全部の事件に介入するのだろうか?年間500件でも、全部に関わるマンパワーはなく、何らかのフィルタがあるはずなのだが。まあ余計なことですかね、純粋にミステリーとして楽しめばいいのかもしれませんが。