新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

全21巻の架空太平洋戦記

 20世紀の終わりごろ、日本には「架空戦記ブーム」があった。その多くは太平洋戦争を描いたもの。実際にあの悲惨な戦争を経験した人の多くは現役を引き、戦争体験を語ることも少なくなった。例えば僕らの世代では、戦記物などを読んで「あの時こうしていたら勝てたかもしれない」という思いを持つ者も少なくなかった。

 

 僕などはアナログのシミュレーション・ゲームでの「追体験」を通じて、日本が勝てる機会は無かったことを知っている。しかしあんな辛気臭い物に入れ込む人間は特異点で、多くの人は「架空戦記」での追体験をするのが精一杯だった。

 

 すでに何作か紹介しているが、SF作家など何人もの作家がこの分野に挑戦し、10冊以上のシリーズ物を出版している。その中でも最長のものと思うのが本書「黎明の艦隊」シリーズ。作者の檀良彦については、他の作品の情報はない。全21巻のボリュームで、長編コミックの原作にもなった。

 

 最新兵器のタイムスリップや宇宙人の登場はなく、歴史を少し改変して日本軍が英米相手に善戦する話である。本書がその最終巻。

 

        

 

 歴史の改変というのは、1941年末に日本軍は開戦しないというもの。日本政府は<ハルノート>を受け入れ、インドシナと中国大陸から撤兵(当時の状況からとても難しいとは思うが・・・)し「昭和の臥薪嘗胆」をして新しい戦略兵器である高速空母主体の機動部隊を充実させる戦略に転換した。

 

 1943年末、戦力を整えた日本は米国と国交を断絶する。予期していた米軍は「新オレンジプラン」に従って、中部太平洋を押し渡ってきた。それを迎え撃ったのが「黎明の艦隊」とあだ名される機動部隊、夜間のうちに戦雷爆連合の航空部隊を発艦させ、黎明を期して奇襲攻撃をかけこれを撃退した。

 

 以降、内南洋を中心に、日米(時には英も)海軍の死闘が20巻も続く。適当に戦史のエピソードは盛られていて、ドゥーリトル空襲などに似た事件が続々起きる。そのほとんどで、山本統幕本部長や小沢司令長官らの指揮で「黎明の艦隊」が勝利する。しかし史実同様、無限とも思える生産力で米軍は新戦力を投入、21巻の最終決戦にいたるというもの。

 

 最初に読んだときは、確か10巻くらいで「飽きて」しまったはず。今回BOOKOFFで最終巻を見つけて、初めて結末を知りました。ちょっとあっけなかったですね。