新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

女王得意の連続毒殺事件

 1953年発表の本書は、女王アガサ・クリスティーの「ミス・マープルもの」。投資信託会社社長の怪死事件を、ひょんなことから関わったミス・マープルが、ロンドン近郊の街ベイドン・ヒースに足を運んで解明する話。

 

 ベイドン・ヒースの水松荘には、実業家のレックス・フォテスキュー一家の住まいだ。レックスは20年ほど前に前妻を亡くしていたが、最近になって子供ほども年の離れた後妻アディールを迎えていた。子供は3人いて、長男のパーシヴァル夫妻は同居していて事業を手伝ってくれている。次男のランスロットは小切手偽造事件を起こして父親と喧嘩し、妻と共に海外に渡っている。長女エレイヌと前妻の姉ラムズボトム夫人は、水末荘に同居している。

 

 ある日出勤したレックスは、職場でお茶を呑んで苦しみ始め、病院で息を引き取った。体内からタキシンという水松(イチイ)からとれる遅効性の毒が検出され、職場ではなく朝食に仕込まれた毒で殺されたと考えられた。不思議なことに、被害者の上着のポケットにはライ麦粒が詰まっていた。捜査にあたるニール警部は、水松荘の住人や使用人から事情聴取をし、被害者を巡る複雑な事情があったことを知る。

 

        f:id:nicky-akira:20211005213200j:plain

 

 ニール警部は遺産狙いで嫁いだと思われる後妻を容疑者と見たが、今度は彼女も水松荘で青酸カリ入りの紅茶を呑んで死んでしまった。その日屋敷内では、小間使のグラッディスも絞殺体で見つかる。3人の死にざまは、マザーグースの童謡「ポケットにライ麦を、詰めて歌うは・・・」の歌詞をなぞったようだ。

 

 かつてグラッディスに使用人の作法を教えていたミス・マープルは、彼女の死を知ってセント・メアリ・ミード村を出てきた。ラムズボトム夫人の好意で水松荘に滞在することになったミス・マープルは、ニール警部に協力して事件捜査に介入する。

 

 レックスはかつて悪事も働いていたようで、アフリカの鉱山買収時には相棒の男を現地置き去りにして死なせている。その男の子供たちが行方不明で、名前を偽り水松荘に潜り込んでいるのではとも思われる。

 

 大技と言うよりは、中規模のトリック複数の組み合わせで「意外な犯人」に導く、ミス・マープルの名推理。ひねた読者だと、ある程度予想できるような気もします。ただどうしても異国人の僕らには、マザーグースの醸し出す雰囲気を感じるのは難しかったですね。