本書の著者森本忠夫氏は、太平洋戦争当時海軍航空隊に所属、戦後京都大学から東レに入社、ビジネス部門を歩いて取締役・経営研究所長にまでなった。後に龍谷大学教授も務め、「ニッポン商人赤い国を行く」「ソ連経済730日の幻想」「貧国強兵」などの著書がある。
そんな人が「日米の比較文明論的戦訓」と副題したのが本書なので、戦略視点の著だろうと思って買ってきた。しかし内容は想像したものとは違っていて、
・ガダルカナル攻防戦にいたる日米両軍の狙いと動き
・ガダルカナル攻防戦、最初の1週間の戦歴
が主だった。ガダルカナル(現在パプア・ニューギニア国の首都がある)を巡る半年余りの戦いは、太平洋戦争中唯一日米両軍が互角だったものである。それゆえにバランスを重視するゲームデザイナーとしては、取り組みやすいものだった。僕もいくつかのゲームをプレイしたことがあり、アバロン・ヒルの「Flat Top」は地図版の隅々まで覚えている。
ガダルカナル島は東西約120km、南北約30kmの小さな島。しかし東西に伸びる山脈は2,500m近い標高を持っている。それゆえ大量の雨が降り、特に山脈の北側には多くの川と密林・沼地があり、わずかだが平地もあった。日本軍はこの平地に飛行場を建設して、対岸のフロリダ島の湾にあるツラギ島に水偵基地を設けていた。
ここに1942年8月米軍の大艦隊が襲来、圧倒的な戦力で設営隊など現地の日本軍を蹴散らした。日本軍もラバウルから900kmも離れたフロリダ島とガダルカナル島の海峡に航空攻撃をかけ、三川提督の巡洋艦隊を送り海戦も挑んだ。本書では三川艦隊大勝利(第一次ソロモン海戦)で戦闘経過は終わっている。戦史では以後半年ここでの戦闘は続き、上記海峡は多くのフネが沈んだ「鉄底海峡」と呼ばれるようになる。
どうしても、本書の視点がビジネスマンとしての「比較文明論」と海軍軍人の「感情論」の間を揺れ動いたように思えてしまう。確かに指摘のように日本側に戦略論がなかったのは事実だが、まともな戦略論があれば日米開戦などするはずもない。歴史としては知っていることばかりだし、裏表紙にあった「新たな方法論的観点」というのも読み取ることが出来なかった。ちょっと残念な「ガダルカナル戦記」でした。