新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

アカウンタビリティ・ジャーナリズムの実例

 昨日「データ・リテラシー」のメディア論を紹介して、ジャーナリズムのあるべき姿として権力者などの知られたくないことを暴く<アカウンタビリティ・ジャーナリズム:調査報道>について勉強した。これはジャーナリズムの本来あるべき姿なのだが、労力もリスクも大きい。その実例を、もう少し詳しく知りたくて読んだのが本書。

 

 2017年の発表で、著者の澤康臣氏は共同通信の記者。特別報道室で、調査報道や深堀りニュースを担当している。調査報道が成果を挙げたものとして、

 

パナマ文書による各国著名人の所得隠し等の暴露

・アゼルバンジャン大統領の通信権益を巡る収賄

・マフィアのアフリカ各国での不正ビジネス

 

 などが挙げられている。<パナマ文書>については、

 

「タックスヘイブン」の仕組み - 新城彰の本棚 (hateblo.jp)

 

 も参照されたい。<パナマ文書>問題では、アイスランドの首相も背任が疑われた。文書の解析は、インターネットから切り離されたアイスランドの町の一角で行われたと本書にある。

 

        

 

 こういう大掛かりな調査報道は、記者単独もしくは既存メディア一社では荷が重い。そこで上記の書にも紹介されていた<国際調査報道ジャーナリスト連合:ICIJ>の他、

 

・世界調査報道ネットワーク(GIJN)

・調査報道記者編集者協会(IRE)

中欧中東系調査報道組織(OCCRP)

・アラブ調査報道記者協会(ARIJ)

・社会健全センター(CPI:米国)

 

 などの機関が連携して対処している。これらの組織には寄付などで賄われるNPOも含まれていて、調査報道を追求する記者たちを支援している。人材育成も盛んで、ベテランの記者たちが、米国の情報公開法を使って知りたいことを引き出す「裏技」も口伝しているとある。こういう記者たちには危険が付きまとい、脅迫はもちろん命も危ない。本書には、中国や韓国の<文春砲>的なメディアも紹介されているが、特に中国のそれが今でも活動できているかはわからない。

 

 翻って日本だが、まさに<文春砲>くらいしか実例が思いつかない。メディアと記者が「アクセス・ジャーナリズム」に縛られているのは確かだが、個人情報保護の運用が厳しいのも一因。知る権利とプライバシー権のバランスが、世界と日本では違うと著者は主張する。

 

 <赤木文書>にみられる黒塗りは、本来公開すべき裁判記録などにもあります。「公」の概念が日本は特殊なようで。