新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

地獄の沙汰も金次第

 あまりTVは見ないから知らないのだが、TBS系の人気番組に「クレイジージャーニー」というものがあった(2015~19年)そうだ。紀行バラエティ番組なのだが、世界の通常の旅行者が行かない様な所を巡る旅人をスタジオに呼び、その体験談を語ってもらうものだという。2019年に深海生物を扱った回でヤラセが発覚、休止のまま打ち切りになったらしい。

 

 テーマは必然的にマニアックなものになり、その中でも危険地帯を巡る旅を担当していたのが本書の筆者、丸山ゴンザレス氏。帯にあるように「危険な奴らに、危険な場所で、危険なこと」を聞いている。TVクルーも同行するのでやや安心とはいえ、本書にあるように密売業者からご禁制品を買うふりをした回は隠し撮りだから、ヤバい目には遭っているようだ。

 

 僕が本書を買った理由は、民族紛争や宗教戦争など僕らに理解できない「ヤバい」世界の内情が書いてあるかなと思ったから。最近Book-offは「COVID-19」対策を理由に立ち読みをさせてくれないので、中身を見ずに買った。

 

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 内容は想定とは違い、世界のスラムや犯罪地域を巡っての体験談。そこでは、殺人・麻薬・密売・売春・窃盗などが日常茶飯事になっていた。日本では小説かドラマの中にしか出てこない「殺し屋」というビジネスが実際に存在していて、何の恨みもない人を「依頼されたから」と殺す。筆者は「殺し屋」へのインタビューをするが、相手は「ただビジネスしているだけ」とあっけらかんとしている。

 

 交通事故のあとの(不具になった)補償が面倒だと、ケガをした人をわざと轢き殺す話。強盗団を追い詰めて、逮捕は面倒だと証人たる1人を残して皆殺しにしてしまう警官隊の話。すべては「コストパフォーマンス」で定められる。彼らの論理はまさに「地獄の沙汰も金次第」というわけだ。

 

 特に危険なのは麻薬中毒患者、本書ではないが世界の麻薬市場は食糧市場よりも大きいと聞いたこともあるが、その実態は不明だ。筆者は命がけで麻薬ビジネスの連中に突撃取材する。

 

 よく犯罪小説にあるシーンやロジックが、実際と変わらないことを「裏付け」してくれた書ともいえる。それにしてもいくら人気番組とはいえ、ここまでやりますかね?現代日本人が刺激に飢えているという証拠とも思えました。