2020年発表の本書は、中国経済の専門家である伊藤亜聖准教授(東大社会科学研究所)が、多くのデジタル化関連の論文を読み解き、新興国におけるデジタリゼーションの実態とその可能性&リスクを論じたもの。まず中国やインドでの先進的なデジタリゼーション例があり、
・中国で最も貧しい地域での遠隔医療
・インドのコネクテッド三輪タクシー
のように他のインフラを差し置いて一気のデジタル化(リープフロッグ型とも言えるだろう)の進展が紹介されている。
先進国たる日米欧諸国は、工業化社会や情報化社会を経て今のデジタル社会を作ってきたのだが、新興国は一足飛びにデジタル化を進めて社会に定着させている。その背景には爆発的な通信機器(要するにスマホ)の普及がある。一人当たりGDPが1,000ドルと言えば相当の後進国だが、それでも携帯端末普及率が50%という国があるほどだ。
本書は、国力も経済力も十分ではないが、それでもデジタル立国として成功した国として、エストニアとルワンダを挙げている。エストニアの電子政府は良く知られているが、ルワンダもベンチャー育成のための徹底した規制緩和で成果を挙げているという。
全国に銀行支店や郵便局を置けない国でも、通信環境を整えれば、決済や文書交換が可能になる。インドで「COVID-19」禍対策の支援が素早く届けられたのは、本人認証と決済ネットワークが確立していたからだ。デジタル経済では、限界費用の低さ、ロックイン効果、ネットワークの外部性があって、迅速なサービス構築が可能な一方、勝者と敗者の差を決定的なものにすると著者は警告する。
国別のネットワークの自由度も示してあって、中国がダントツ1位の不自由度。以下、インドネシア、サウジアラビア、インド、南アフリカ、ロシアと続く。サウジアラビアが近年規制を強めているという。不自由なはずのインドネシアでも、フェイクニュースは止められない。前回の大統領選挙では「ジョコ大統領は共産主義者」のデマが流れた。限定されたデータ環境では、ひとつのニュースが大きな影響を持つ。デジタル化の影の部分として、本書は2点挙げている。
・一部のIT人材以外は、雇用を失う可能性がある
・政府等の監視が激しくなり、統制社会になる
リテラシー教育が不十分な中、突然便利になった市民がどうなるか?リスクの高い実験場に新興国(含む中国・インド)はなるかもしれません。