新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

砂漠の老女と「子連れ狼」

 1990年発表の本書は、題名を「A」から順に付けていくスー・グラフトンの第七作。前作「逃亡者のF」で自宅を爆破されてしまった女私立探偵キンジー・ミルホーンは、大家さんのヘンリー(80歳)や食堂の女主人ロージー(65歳)から孫子のように可愛がられて自宅も再建できた。33歳の誕生日も、二人に祝ってもらった。「ハッピーバースデー」の歌は、あまりに下手なヘンリーだったが。

 

 彼女に来た新しい依頼は、内陸のモハーヴェ砂漠でトレーラー暮らしをしている母親アグネスの音信がないから見て来てくれというもの。半年前から私書箱あてに送っている小切手が換金されていないことに気づいた娘アイリーンからのものだった。アイリーンは癲癇性の発作持ちで、まだ50歳にもならないのに70歳くらいに見える。彼女を安心させようと、キンジーは愛車に補給品(コーラとか)を積んで砂漠へと出発する。

 

 実はキンジーにはひとつ気がかりがあった、以前ある犯人の逮捕に協力したのだが、その男が獄中から、担当裁判官・検察官・弁護士とキンジーを殺すよう、殺し屋を雇ったというのだ。加えてキンジーがまだ目的地に着かないうちに、裁判官が殺されたとの連絡があった。

 

        

 

 目的地では、アグネスのトレーラーは見つかったものの彼女の姿はなし。調べ廻るうち、アグネスが付近の病院にいることが分かる。彼女は認知症が始まっていて、キンジーの言葉に耳を貸さないが、とりあえずアイリーンには連絡出来た。ほっとした彼女の車を大型トレーラーが襲う。愛車はポンコツとなり、彼女も多くの打撲傷を負った。途中見かけた子連れの男が殺し屋らしいと気づき、キンジ-はタフガイ探偵ロバートを護衛役に雇う。

 

 アグネスの失踪にはウラがあり、殺し屋からの守りと共に、キンジーとロバートの共同捜査が始まる。今回初登場のロバートがなかなかいい。銃器オタクで、キンジーに銃の選び方や使い方を指導し、寝酒も付き合ってくれる。

 

 アグネス事件の結末は、救いのないもの。しかし「子連れ狼」に襲われた窮地のキンジーを救ったロバートとキンジーの関係は、発展しそうだ。友人ヴェラも良き伴侶(ユーミンの「5cmの向こう岸」を思い出す)を得て、ヘンリーやロージーも元気。このシリーズ、「大河ドラマ」の様相を呈してきました。