本書は以前「三千年の海戦史」など戦略・戦術論を紹介している、松村劭元陸将補の歴史教本。冒頭「戦争学」が英米等では立派な学問として成立しているのに、日本では「考えたくないことは考えない」との風潮があって、軍事的な研究が貶められているとの嘆きが聞かれる。
第一次世界大戦後、戦争は「総力戦」となった。国家の8つの要素すべてが戦争継続/勝利に必要であり、そのうちの一番弱い輪が狙われるとある。その8要素とは、
・国土の戦略的地勢
・人口
・政府の統治力
・国民の士気
・国民の性質
・産業、経済力
・外交力
・軍事力
である。サイバー空間での攻撃、例えば「Fake News」が政府の統治力を破壊しようとするなら、これは戦争行為と言えるだろう。また第一次世界大戦後英軍のJ・F・フラー将軍が書いた「機甲戦」は、各国の軍事教本となったが日本ではとりあげられていないとある。その中には、
・目標の原則
・主導の原則
・機動の原則
・奇襲の原則
・警戒の原則
・集中の原則
・節約の原則
・統一の原則
・簡明の原則
が挙げられている。近代機甲戦を題材に書かれた「原則論」だが、古来の戦争の原則は変わっていないと筆者は言う。これまで「戦略・作戦・戦術」の違いをいろいろな書で紹介しているが、筆者は国にも名将にも固有の「戦闘教義:Combat Formation」に着目している。
本書の終盤は第一次世界大戦以降の、僕も良く知っている戦史の紹介なのだが、それ以外はシミュレーション・ゲームのタイトルでしか見たことのない戦史が取り上げられていた。例えば、
・長弓が騎兵を駆逐した「クレシーの戦い」
などである。加えて「名将の運命」についても記述が多い。戦時に有能な将軍は平時には「厄介者」でしかなく、育てるのも難しく、機会を得て功名を挙げても報われることは少ない。ビザンチン帝国の名将ベリサリウスは大戦果を挙げながら、何度も引退させられ、危機になると呼び出される運命に翻弄された。ジンギスカンは、平時向きと戦時向きの将軍をきちんと分けていた。つまり「人事は万事」なのだが、これを誤ると「人事は万死」になるとある。
松村先生のこのシリーズ、合計4冊読みました。順次ご紹介しようと思います。