新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ホープ弁護士登場

 多くのペンネームを持ち、多様な物語を発表した才人エド・マクベイン。もちろん有名なのは「87分署シリーズ」なのだが、そのほかにも本書(1976年発表)に始まる「ホープ弁護士シリーズ」をこの名義で何冊か発表している。舞台は、大都会を遠く離れたフロリダ州の架空の街カルーサ。メキシコ湾に面した田舎町で、リゾート客も多い。シーズンには並み居るモーテル街から、「空室あり」のサインが消えてしまうという。

 

 私ことホープ弁護士は知り合いの内科医ジェイムズから、日曜の深夜電話を受ける。隔週でプレイしているポーカーゲームから帰ると、妻と2人の娘が自宅で刺殺体となっていたという。私は警察に通報するように言うと、自分も現場に駆け付けた。ジェイムズと妻のモーリーンは再婚で、ジェイムズには別れた妻ベティとの間に20歳を越えた娘カリンと息子のマイケルがいた。

 

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 ジェイムズとモーリーンの関係も冷え込んでいて、お互い愛人がいるらしい。とにかく登場人物のうち警官や検視医などを除いた関係者の大半が離婚経験者か、不倫真っ最中。私(ホープ弁護士)だって若くして結婚した妻との間に娘がいるのだが、夫婦関係は最悪で、亭主持ちの女性から離婚して自分と再婚(当然彼女も離婚する)してくれと言われている。

 

 まだ3月だというのに纏わりつくような暑さのフロリダで、すべての関係者がつく嘘(それも底の浅い嘘)に、刑事が専門ではない私は翻弄される。警察が最初に目星をつけたのは夫のジェイムズ。ポーカーの後の足取りが怪しかったのだが、突然マイケルが「自分がやった」と自首してきて、行きがかり上私はマイケルの尋問の立ち合いもすることになる。

 

 米国では当時離婚率が50%を超え、多くの家庭が崩壊したか崩壊直前の状況にある。マイケルの場合も12歳の多感な少年時代に両親が離婚、心に深い傷を負っている。マイケルと半同棲中の娘リーザの両親も離婚していて、二人は同病相哀れむ暮らしをしているらしい。離婚以上に目立つのが早婚、学生時代にすでに子供が出来てしまったり、男が医師や弁護士になるまでの間、妻がアルバイトで支えた話も多い。

 

 作者が本書で言いたかったのは、米国社会の病理と思われます。事件解決の意外性や鮮やかさはないものの、社会の病んだところを冷静に書き込んでゆく技量は並みのものではありません。このシリーズも、また探してみることにしましょう。