本書は、ちょうど「東京オリ/パラ」の1年延期が決まった、2020年5月に発表されたもの。著者の後藤逸郎氏は、毎日新聞で<週刊エコノミスト>編集などに携わったジャーナリスト。「オリンピック・マネー」という題名通り、このイベントにまつわるカネ・利権について告発した書である。
前半2/3が、近代オリンピック発祥から今日にいたる歴史、特に「五輪貴族」とも言われる国際オリンピック委員会(IOC)の実態を著わしたもの。残り1/3が、今回の誘致にあたり<新国立競技場>建設用地とその周辺の再開発に関する「裏事情」である。著者は恐らく後者を書きたかったのだろうが、僕としては前者について学ぶところが多かった。
本筋ではないが、近代五輪の父クーベルタン男爵が「アマチュアリズム」を掲げた理由が面白い。彼は五輪を貴族のものにしておきたかったから、「アマ」に限定したとある。「プロ」を排除すれば、カネと時間に余裕のある貴族が有利なのは確かだった。しかしその理念も、1974年にIOCが消し去った。五輪商業化の転換期である。
IOCはスイス・ローザンヌにあるNPO/NGO、NPOなのに巨大利権を持ち「五輪貴族」と言われている。傘下には膨大な関連機関があるが、中でも巨額マネーを扱うのが「オリンピック・ブロードキャスティング・サービス(OBS)」という組織。競技関連コンテンツ配信を一手に担っている。しかも同名の組織が2つあって、
◇OBS株式会社 ローザンヌ
◆OBS有限会社 マドリード
株式会社の方が企画担当で、実務は有限会社に委託しているようだ。メディア等からの出向者は有限会社で作業している。企業規制が緩く税金が安いが生活費・人件費の高いスイスと税金は高い(EUの通常)が生活費・人件費の安いスペインをうまく使っているわけだ。
IOCの年間収入は、この20年間で3.4倍になった。2015年ころには年間約14億ドル。内訳は、TV放映権料73%(10億ドル強)、TOPスポンサー料18%(2.5億ドル強)だ。放映権を持つNBCが暑い夏に挙行させるのは、視聴者が夏休みだと週末以外でも観てくれるからだとある。
完全に商業化されながらリスクは全部開催都市がカブるビジネスモデルで、そういう時だけは「NPOですから」とIOCはリスクを取らないそうです。これでは、今後開催都市候補は出てきませんよね。