新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

シビリアンコントロールの37年

 本書は「南スーダンPKO日報問題」で防衛事務次官を退いた黒江哲郎氏が、37年間の防衛省(庁)での思い出をつづった回顧録。2020年末から元防衛官僚を中心に作るサイト<市ヶ谷論壇>に掲載された記事を、2022年に書籍化したもの。基本的に防衛省もしくは中央官庁職員である後輩たちに、自らの失敗談を語ってより良い官僚になってもらおうとの姿勢で書かれている。

 

 筆者は東大法学部卒、入庁以来防衛政策局などいわゆる「内局」勤務で、地方にも現場にも出たことがない。もっぱら「主敵」は、財務省や官邸、政治家、メディアなどである。新人の時に言われたのは「うまく板挟み(財務省と各統幕)になり、その中で泳ぐ余地を探せ」ということ。筆者はその言葉を守りながら、内局がしっかりしていないとシビリアンコントロールにならないと頑張ったという。

 

        

 

 面白いのは、防衛庁時代の庁自体の評価。「外務省その他は有事の官庁だから・・・」とある。要するに防衛庁は「平時の官庁」だったわけ。だから海外へのPKOなどでも「安全でないと出ていけない」わけだ。確かに、イラクで外務省の参事官が銃撃され殉職するなどの事件はあったが、自衛隊は発足以来「戦死者」は出していない。

 

 地方や現場の経験がないと嘆く筆者は、官房長時代に次世代のエリート向けに1ヵ月の現場研修プログラムを作ったとあるが、いまさらの感も否めない。最後は(僕から見るとつまらない)PKOの日報が保存されているか否かの論争に巻き込まれて、辞職することになった。これも(某総務事務次官の件同様)誰かをかばってのことではないかと思えてしまった。

 

 装備する兵器等についても法的根拠などは説明できるが、使ったらどうなるかの知識は不十分ともある。そんな内局が現場を支配するなら、いくらシビリアンコントロールといっても、自衛隊が本当に戦えるのか不安になってしまいますよ。