新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

選挙と建設業界の深い闇

 1990年発表の本書は、久しぶりの「V・I・ウォーショースキーもの」。シカゴの女探偵V・Iことヴィクの正義感あふれるゆえの苦闘を、イリノイ州在住の作家サラ・パレツキーが書き続ける第6作である。毎回背景となる舞台を変えているこの作品群、今回の舞台は建設業界である。

 

 巨大な米国は州が事実上の国、州の下に直接市町村があるとは限らず、その間に郡(County)がある。特にイリノイ州では郡の権限が強く、権力の集まるクック郡の行政委員会は今改選が行われようとしていた。

 

 米国のどの選挙でもそうだが、選挙資金の集まり具合が候補者の実力・人気を示し、当選すれば資金提供者・団体にメリットがある。表の選挙資金に加えて、裏金の提供元としても有力なのが建設業界。土地の開発/再開発の許認可権が絡んでくる。

 

 以前の家を焼かれてしまい、新しいアパートに移ったヴィクは、同じアパートの住人との摩擦がある。商売柄夜遅くの出入りもあるが、隣に住む神経質な銀行マンからは「警察を呼ぶぞ」と怒鳴られる。

 

        

 

 そんな時も含めて陰ひなた無く彼女をかばってくれるのが、同じアパートの住人コントレーラス老人。77歳になるが、矍鑠としていて愛犬と共にヴィクを支える。そんなアパートに深夜に転がり込んだのが、ウォーショースキー家で一番困りもののエレナ叔母。父トニーの妹で、66歳になるのに酒浸りで男に目がなく、だらしもない。

 

 エレナ叔母が住んでいた古いホテルが焼失し、行き場を失ってしまったのだ。やむなくその晩は泊め、次の安ホテルを探すヴィクだが、帰宅してみると知り合いだという黒人娘ゼリーナを連れ込んでいた。彼女は麻薬中毒で妊娠している。タチの悪いことに2人はヴィクの財布やカードを盗んで姿を消した。

 

 やがてゼリーナが建設工事現場で死体となって見つかり、エレナは行方不明のままま。ヴィクの周りには、火災保険の調査員、爆発物担当の警官、焼けたホテルのオーナー、地上げを企む建設業界の男らが現れる。やがてヴィク自身にも殺意のてが延びて来て・・・。

 

 このシリーズ、時間の経過とともに登場人物も年を取っていきます。32歳でデビューしたヴィクも37歳、両親を良く知る警官マロリーも60歳近くなり引退間際。西海岸の女探偵キンジーには大家のヘンリー老人がいるが、それに匹敵するコントレーラス老の活躍が面白い。このシリーズも大河ドラマっぽくなってきましたね。