1993年発表の本書は、ポーラ・ゴズリングの第11作。「モンキーパズル」あたりからレギュラー探偵を登場させている作者は、前作「ブラックウォーター湾の殺人」でこれまでのストラーカー&ケイトに加えて、ブラックウォーター郡の若き三世保安官マット・ゲイブリエルと、その恋人で画家のダリア・グレイを紹介している。
本書ではストライカーらは顔を出さず、事件探求はマットと保安官事務所のメンバーに託される。というのも、マットの亡き父親も、副保安官ジョージの父親も事件にからんでくる、非常にローカルな事件だからだ。
ハロウィーンが近づくと、この街は異様な空気に包まれる。<ハウル>と呼ばれる馬鹿さわぎに、全郡が覆われてしまうのだ。子供たちはもちろん、市長などの要職にあるものも、みんなとんでもない仮装をして街に繰り出す。10月になると、誰もがその準備に忙しく、気もそぞろなのだ。マットの保安官事務所でも、副保安官たちが今年の仮装について激論している。結局決まったのは「フランス人の警官」の扮装をするということ。このあたりの皮肉が、いかにもゴズリング流。
今年はけが人が少なければいいななどと願うマットのところに、薬剤師の男が交通事故で危篤となり、マットに話したいと言っているとの連絡が入る。駆け付けたマットに、男は「ジャッキー・モーガン」とだけ言い残して息を引き取った。マットは街の弁護事務所、新聞社などにこの名前を調べさせるのだが、容易に見つけられない。
ようやく見つけた名前は、30年前に<ハウル>の騒ぎの中で崖から落ちて死んだ青年のものだとわかる。一緒に騒いでいた20歳前の青年たち8人の中に、薬剤師の男がいた。残る7人は、市長・銀行の幹部・医師・引退した大富豪・ジョージの父親の弁護士・不動産業・自動車販売業など大物ばかり。マットは7人に30年前何があったかと詰め寄るのだが、7人の結束が固く真相は藪の中。
そしてついに<ハウル>の当日、ターミネーターやターザンたちが呑み歩く中、ロビン=フッドの扮装をしていた銀行員が殺されてしまう。マットは残った6人を問い詰めるのだが・・・。
陰惨な物語なのに、全編を貫く「馬鹿さわぎ」で思わず笑ってしまうシーンが続く。これが米国の田舎町の本当の姿なのかもしれない。美しいブラックウォーター湾の秋と共に、暮らしの描写が興味深かったです。