新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

時間を操る回転木馬

 本書(1962年発表)以前「火星年代記」を紹介した、レイ・ブラッドベリの長編ファンタジー。本国では根強い人気のある作家だが、短編集含め8冊しか作品のない寡作家でもある。「火星・・・」がデビュー作で、本書は7作目にあたる。

 

 SF・ファンタジーと一括して扱われるのだが、本来これらは別物。ジュール・ヴェルヌコナン・ドイルのころは判然としていなかった区分が、1950年以降ははっきり分かれてきた。例えばマイクル・クライトンの「アンドロメダ病原体」などは、ほとんどが科学的事実なので「Science Fact」小説とも呼ばれる。一方、作者の作品は明確にファンタジーだ。

 

 解説では作者とフレドリック・ブラウンを「似ている」と評しているが、ハードボイルドから本格、SFまでこなすブラウンとは違い作者は「本当のファンタジー作家」だと思う。共通点としては、カーニバルが作中によく出てくることだろうか。

 

 本書の主人公は13歳の少年、ウィルとジムの二人。思春期で好奇心にあふれる彼らは、親の目を盗んで深夜に出歩いたりしている。ある日彼らは午前3時に機関車の音を聞きつけ外に出てみると、列車に積み込まれたカーニバルのテントが設営されているところだった。

 

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 立ち入り禁止の立て札を無視して彼らが設営現場に入っていくと、鏡の迷路や回転木馬の準備が進んでいた。そこで彼らは不思議なモノを見る。回転木馬が後ろ向きに回ると、乗っていた男はどんどん若返るのだ。逆に前向きに回ると、どんどん年を取る。1回転が1年を前後させるようだ。

 

 本当に不思議なカーニバルで、二人の学校の先生でもあるミス・フォレーは鏡の迷路に閉じ込められ、危ういところを彼らに救われる。不思議な避雷針を売り歩いていた男は、迷路に呑まれて行方不明になる。魔女、骸骨男、刺青男、一寸法師、蝋人形などが登場するが、夜のカーニバルではそれらの魔物が正体を現し、奇形族が闊歩する。それを目撃してしまった彼らは、魔物に追いかけられる羽目に・・・。

 

 カーニバルという夢と現実の狭間にあるような世界は、ファンタジー作家としては扱いやすい舞台なのだろう。子供と大人の狭間にいる13歳の主人公たちの心の揺れを、カーニバルと合わせて描いた作品。評価は高いのですが、僕自身には、あまり面白くなかったですね。まあ、好みの問題でしょうが。