第二次世界大戦では多くの主力艦(戦艦・巡洋戦艦・航空母艦)が沈んだが、その多くは太平洋でのことである。早々に降伏してしまったフランス海軍や、戦艦4隻が建造中止になったソ連海軍、大型艦は逃げ惑うだけのイタリア海軍、精強だがわずかな艦艇しか就役させられなかったドイツ海軍・・・では「大海戦」など望むべくもなかった。
結局大西洋や地中海で主力艦を仕留めたのは、潜水艦だった。本書は大英帝国海軍とドイツのUボートの闘いを10編収めたものである。通商破壊として輸送船を狙うことが多い印象のUボートだが、本書にあるように「大物食い」もしている。一番興味を惹かれたのは、戦艦バーラムとそれを沈めたU331の物語だ。
1941年11月、クイーン・エリザベス級戦艦バーラムは同型艦2隻と地中海で作戦行動中、U331の魚雷を受けて傾き火薬庫に火が回って爆沈している。
◆戦艦バーラム
・就役 1915年
・満載排水量 35,000トン
・出力 75,000馬力
・速力 24ノット
・主砲 38cm連装砲4基
・副砲 15cm砲12基
・高角砲 10cm連装砲4基
第一次世界大戦中に就役した古参の戦艦で、対空兵装(2ポンド8連装ポムポム砲など)を充実させるなど近代改装はしていたものの機動戦には使えなかったと思われる。
◇U331(ⅦC型)
・就役 1941年
・潜航時排水量 871トン
・出力 3,000馬力
・速力 水上17.7ノット、水中7.6ノット
・潜航深度 230m
・兵装 53.3cm魚雷発射管5基、88mm砲
最も完成度が高いと言われたⅦC型の一番艦で、ティーゼンハウゼン大尉の指揮のもと地中海に進出していた。クイーン・エリザベス級戦艦3隻が駆逐艦4隻に護衛されて移動しているところにU331が接近、1発の魚雷でバーラムを沈めた。
このときバーラムに後続していた同型艦ヴァリアントがU331の艦橋部分を艦底で削り、U331は一時期深度260mまで沈降する。その時は帰投できたU331だが、1年後英空軍のハドソン機に爆撃されて浮上しその後沈没している。ティーゼンハウゼン大尉は本国で英雄とされ、ゲッベルス宣伝相のラジオ番組にも出演し生々しい海戦の状況を訥々と話したという。
Uボートはほかに、古参空母カレイジアスや新鋭空母アークロイアルも沈めています。大英帝国海軍の強敵は水面下にいたということです。