2020年発表の本書を、今月来日したMicrosoftの友人から貰った。同社はOSというソフトウエアでPC業界を席巻しながら、スマホではAppleに敗れた。また米国政府と独禁法で争い、法律や常識の異なる各国との軋轢も経験した企業だ。今も世界を支配しようとする凶悪な企業だとの批判にさらされている。
本書は同社のコンプライアンス責任者ブラッド・スミスと、広報担当キャロル・アン・ブラウンの共著である。全16章、資料も含めて460ページにもなる「重い」書籍だ。同社は単なるIT企業ではなく、"Techplomacy"(技術+外交)を推進する機関になっているという。
サイバー空間には、法規も条約もほとんどない。その中で、法律家や倫理学者など技術の外の世界の人達と議論し、サイバー空間での秩序や人権、倫理を守ろうとした行動の履歴でもある。
世界が危惧するAIの開発については、6つの原則を守るという。まず何よりも「結果責任」と「透明性」が必要だ。そして「公平性」「信頼性と安全性」「プライバシーとセキュリティ」「インクルージョン」である。最後のものは「誰もが置き去りにされることなく活用できること」と翻訳できるだろう。
いくつか確認できたこともあった。"WannaCry"を始めとするウイルスの基本部分は、システムの脆弱性を見つけた米国NSAが作ったということ。これを盗んだ北朝鮮らが「弾頭部分を挿げ替えて」身代金要求ツールにしたとある。中国らは、NSAが脆弱性を発見してもMicrosoftらに知らせていないことを非難したとある。また「国内にサーバー設置を強制することの禁止」だが、経済的な合理性だけでなく強権的な政府にユーザの情報を接収されることを怖れたからだともある。
同社は「Techplomacy活動」として、クラウド法(海外データ合法的使用明確化法)を制定させたり、デジタル版ジュネーブ諸条約(サイバー空間での国際秩序条約)の推進を各国政府に働きかけている。僕も、この20年ほど何らかの形で関わってきたことがらです。これからも協力させてもらいますよ。