新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

Crime Impossible

 1972年発表の本書は、デビュー作「やとわれた男」や悪党パーカーシリーズを紹介しているドナルド・E・ウェストレイクの、パーカーものとは違うシリーズの1作。これも犯罪者が主人公で、カネの話が中心になるのだが、パーカーものよりはすこしユーモラス。あとがきによると、作者がパーカーもののつもりでプロットを考え始め、面白くなりそうだったが、トーンがパーカーのイメージと違っていたので主人公を変えたらしい。そこで「天才的犯罪プランナー・ドートマンダー」が生まれたわけだ。

 

 今回ドートマンダーと仲間たちが狙うのは、C&I銀行の金庫。この支店は建て替え中で、その間トレーラーハウスを改造した仮店舗で営業中。これをそっくり頂こうというわけ。集められたのは、

 

・ドートマンダー 犯罪計画と指揮

・ケルプ ドートマンダーの相棒で補佐役

・メイ ドートマンダーの恋人

・ビクター ケルプの甥で元FBI

・マーチ 自動車泥棒

 

 これに金庫破りのプロ、ハーマン・Xが加わる。マーチの母親も手伝ってくれる。もちろん銀行側も警戒はしていて、トレーラーからは車輪も車軸も外されコンクリートブロック上に乗っけてある。現金を置いていない1日/週を除いては、7人の警備員が夜間も常駐する。金庫は最新式で、警報装置も取り付けてある。

 

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 この難攻不落のトレーラー(というより中の金庫)をどうやって盗むのか、カネを持ち出すのかがドートマンダーたちの前に置かれた課題。なんとなく雰囲気は昔のTVドラマ「スパイ大作戦:原題 Mission Impossible」に似ている。

 

 マーチが車輪や車軸、牽引用のトラックを調達、マーチの母とメイは観光客を装って支店に近づき、トレーラーの固定状況を調べる。トレーラーを一時期隠す場所の選定や、偽装の準備も進む。こういう本筋以外にも、見どころはある。ケンプが必要な資金を集めるのだが、それはある開業医から4,000ドルを借りること。犯罪が成功したら倍返しというわけ。この出資者は「隠し所得のある業種」から選ぶとある。黒人の金庫破りハーマンが、アルバイト的に行う日銭稼ぎの強盗の手口も面白い。

 

 作者独特の軽妙な語り口と、ユーモラスな展開が際立つシリーズだと分かりました。もっと探してみることにします。