2020年発表の本書は、第二次安倍内閣で内閣官房副長官補を努め初代の国家安全保障局次長を兼務した兼原信克氏の近代日本史概説。以前、筆者が陸海空の名将を集めて司会をした座談会をまとめた「令和の国防」を紹介しているが、本書は単独執筆。外交官として血塗られた20世紀の日本外交史を見て、21世紀の国家戦略はどうあるべきかを論じたもの。何ヵ所か金言がある。
・外交は常に連立方程式である。全体を見る力がない国は亡びる
・工業化に焦れば焦るほど、伝統社会を強権的に破壊し作り直したい衝動が出る
特に後者は、工業化⇒Global & Digital化と読み替えれば、僕自身の想いに通じることがある。工業国家の内側では、悲惨な生活を送る都市部の労働者が叫びを上げ、
1)労働組合と議会政治で格差を是正 ⇒ 先進的な民主主義国家
3)エリート軍人やポピュリストの台頭 ⇒ 国家社会主義などの独裁国家
に分かれたとある。日本は3)の道を歩み「統帥権の独立」という愚挙を経て敗戦、1)の道に戻れたということ。作戦、戦術には優れていたかもしれない軍人も戦略はお粗末で、必要のない敵を作って破滅した。外交も軍事も、国益を守るためにある。21世紀日本の国益とは「アジアの民主主義国家が欧米の先進民主主義国家と協調し、アジアに自由主義的な国際秩序を創造すること」だとある。
日本には民主主義国家としての実績と共に、
・人類愛にもつながる優しさという普遍的な価値観
・法の支配を続けてきた伝統
がある。特に欧州は権力を絶対悪と見なした法体系を作るが、日本では権力は要監視ではあるが悪ではないと考えている。この考え方で、アジア諸国を導くべきだという主張。
筆者らの努力で国家安全保障会議の建付けは出来たが、足らないところは多い。次世代の人達に、上記の思想で会議を発展させてほしいともある。宗教的な部分は苦手なのですが、大意は理解できました。