新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

SNS革命、それぞれの事情

 デモから暴動、治安部隊の弾圧を受けても民衆の炎は消えず、革命に至る。隣国や似た環境の国での様子を見て、自国でもと革命が連鎖する。近年はSNSの普及によって、炎の燃え広がり方が激しくなった。そんな実例となったのが「アラブの春」。2011年1月のチュニジア大統領追放に始まったこの事件は、日本では東日本大震災が3月に起きて充分な情報が得られていない。

 

 2012年発表の本書は、ジャーナリスト重信メイ氏が見た「アラブの春」の実情である。筆者は日本赤軍リーダーだった母とパレスチナ人の父の間に、レバノンで生まれた。北アフリカからイラクに至るアラブ諸国は、ひとくくりにはできない。一般に石油国は豊かで、そうでなければ貧しい。しかし一様に権力は集中していて、腐敗も根深い。

 

        

 

 革命は、民衆が「もう捨てるものは何もない」ところまで追いつめられて起きると筆者は言う。富が集中して経済が停滞、若年層の30%が失業すると危険信号。12年前の今日(12/17)絶望したチュニジアの青年が焼身自殺をした。その映像がSNSで拡散して、民衆の怒りに火が付いたのだ。

 

 同じように貧しい人の不満が溜まっていたエジプトにも革命は飛び火、ムバラク政権も倒れた。しかしこの両国では、民主化は起きなかった。不正の少ない普通選挙が行われたまでは良かったが、結果はムスリム同胞団が政権を取ったからだ。より抑圧的な政治が始まって、リベラル派は追いやられてしまう。

 

 これに比べると、リビアやシリアの事情は違う。カダフィやアサドを失脚させたい米国らが、CNN等のメディアを使って「春」を演出した。前者は倒れたが、後者は生き残っている。アルジャジーラも公正に見えるものの、やはりカタール政府の批判はしない。

 

 サウジやイエメン、モロッコバーレーンイラクレバノンなどの事情を記した、珍しい歴史書です。重信房子さんの娘さんですか、一度お会いしたいものです。