新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

孤独で、危険な囮捜査

 1991年発表の本書は、アルファベット順に題名を付けてくるスー・グラフトンの「キンジー・ミルホーンもの」の第8作。キンジー自身は腕っぷしにも銃の扱いにも自信はなく、前作「探偵のG」では命を狙われてタフガイのボディガードを雇った。その男ロバートとはいい関係になり、おなじみの大家さんヘンリー、世話を焼いてくれるヴェラらと「チーム・キンジー」結成の予感をさせた。しかし、本書では一転、彼らはキンジーの回想の中でしか登場しない。キンジーは孤独で危険な囮捜査を強いられる。

 

 サンタ・テレサで一人探偵業を営むキンジー、オフィスはカリフォルニア信用保険会社の一部を間借りしている。今回は信用会社のマネージャーが交代し、同社とキンジー(探偵社)のフレキシブルな間借り&調査依頼契約に難癖をつけてくる。新マネージャーの四角四面さは「こういう中間管理職、日本だけじゃないね」を確認させてくれる。

 

        

 

 新マネージャーになっての最初の依頼は、自動車事故後の治療等に関する保険金支払いの急増の調査。事故そのものは大したことはないのだが、延々後遺症を訴えて保険金請求をしてくる人たちがいるのだ。そのうちのひとり、ラティーナのビビアンナをキンジーは洗い始める。

 

 彼女は5フィートあまりと小柄ながら、ダイナマイトボディの持ち主。クリーニング店で働いているのだが、後遺症を理由にほとんど出勤していない。しかし夜な夜な飲み歩いているようだ。彼女を巡っては、キンジーの幼馴染の元警官ジミーと、ラティーナのヤクザ男レイモンドがどちらも「俺の婚約者だ」と言い張って緊張関係にある。

 

 キンジー、ジミー、ビビアンナが飲んでいるところにレイモンドの弟夫婦が乱入、銃撃戦でジミーは弟を撃ち殺してしまう。その騒ぎの中、ビビアンナをかばって警官を殴ったキンジーも逮捕されてしまう。知り合いの警官の提案は、釈放する代わりに囮捜査をしてくれというもの。キンジーはいやいやながら、その孤独で危険な捜査に加わる。

 

 レイモンドらの犯罪組織には、他の囮捜査官もいるようだし、警察内部にもレイモンドの手のものがいる。誰を信用していいかわかない疑惑の中、キンジーはビビアンナを守ろうとする。

 

 社会派ミステリーなのかハードボイルドなのか区分が難しいシリーズですが、本書ははっきりハードボイルドです。グラフトンは本作でロバート・B・パーカーに挑戦したと解説にありました。