新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

最悪のシナリオの教本(前編)

 本書は日本を代表するSF作家小松左京が、足かけ9年の歳月をかけて書き上げた大作。東日本大震災福島原発事故を目の当たりにした菅(当時)総理は、最悪5,000万人の避難を要する可能性を聞かされ、本書のタイトルを思い出したという。全800ページに及ぶ壮大な物語で、スペースオペラなどは言うに及ばず、クライトンの「アンドロメダ病原体」などの名作をしのぐものだと思う。

 

 物語は、日本海溝に近い海域で、突然島が隆起しそれが再び海に没するところから始まる。長い地球の歴史では珍しいことではないが、問題はそのスピード。1日数メートル沈むし、辺りには大規模な重力異常がある。1万メートルまで潜れる潜水艇で調査に向かったのは、海洋開発KKの操縦士小野寺と、地球物理学の野人研究者田所教授。教授は過激な言動、権威におもねらない性格で、学界からはつまはじきにされている。

 

        

 

 それでも研究を続けられ、専門家として一目置かれているのは、何者かが資金援助をしているかららしい。折から日本列島のあちこちで地震や噴火があり、リニア工事の計測データに狂いが生じていることもわかる。

 

 海外からの機材、自衛隊の協力なども受けて田所教授らが出した結論は「地球のコアに歪が出来て、日本周辺のマントルが異常な速度で動いている」ということ。このままでは、五分五分の確率で日本列島が2,000メートルほど沈降する可能性がある。田所チームの報告を基に、日本政府は特別プロジェクトを開始した。

 

・D-1 日本の市民や資産、その他重要なものを海外に避難させる準備

・D-2 田所チームと自衛隊らで、地殻変動の実態を調査、時間的余裕を図る

 

 その矢先、東京近海で大地震が発生。大きな揺れと、その後襲った津波で下町は壊滅し、広範囲に炎が燃え広がった。警察・消防も打つ手がなく、数百万人の犠牲者が出てしまった。

 

<続く>