新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

被害者は誰、そして犯人は?

 1957年発表の本書は、女王アガサ・クリスティの「ミス・マープルもの」。ミス・マープルはセント・メアリ・ミード村をあまり出ることはないのだが、本書ではロンドンの北西、パディントン駅から列車で数十分の距離にある、ブラッカムプトンでの事件に巻き込まれる。

 

 というのは、マープルの旧友の老婦人が、ロンドンでたっぷりクリスマスの買い物をしてセント・メアリ・ミード村に戻る途中、男が女を絞殺するシーンを見てしまったから。彼女はパディントン駅発PM4:50の急行に乗っていて、ブラッカムプトン到着直前に、先行したパディントン駅発PM4:33の普通列車内での殺人を目撃したのだ。

 

 次の駅で降りて車掌や警察に事情を話すのだが、あまり信じてもらえない。警察も通り一遍の捜査はしたのだが、どこからも死体や他の目撃情報が出てこない。しかしミス・マープルだけは友人の目撃情報を信じ、独自捜査を開始する。

 

 ミス・マープル普通列車から犯人が死体を放り出すとしたら、広大なクラッケンソープ家の屋敷内ではないかと考え、調査員を派遣する。選ばれたのは、32歳の天才的な家政婦ルーシー。彼女はクラッケンソープ家に潜り込み、犯人が死体を落としたあと、どこに隠しそうかを考えて屋敷内を巡る。

 

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 ついにルーシーは線路わきで化粧用コンパクトを発見、そのそばの納屋の石棺内で女の死体を見つける。ようやく現地警察が動き出したが、被害者の身元が分からない。一方クラッケンソープ家には、吝嗇な当主と4男2女がいたが、子供の内2人は故人。戦死した長男には、フランスで結婚した妻がいたらしいが彼女は行方不明。病死した次女の夫は息子を連れて邸宅に戻っている。遺産相続権があるのは、残る3人の息子・未婚の娘・孫息子の5人。

 

 ミス・マープルを尊敬するロンドン警視庁のクラドック警部も捜査に加わるのだが、杳として被害者の身元が分からない。ましてや犯人の方も。ただ死体が見つかっただけのクッラケンソープ家で相続人の毒殺が起き、事件は複雑な様相を呈し始める。

 

 本書の解説を「日本の女王」山村美紗が書いていて、マープルの魅力をいろんな視点で紹介している。本書は「マープルもの」のNo.1に推す人もいて、冒頭の謎と鮮やかな解決は一流である。しかし中盤のサスペンスは、ユニークな家政婦探偵ルーシーをもってしても、ちょっと足りなかったかなとの印象です。