欧米のミステリーは1930年代に一つのピークをつけ、その後バラエティ豊かなものになって、現在は本格的なパズラーは比率を大きく減らした。僕自身も21世紀の欧米作品で一番多く読んでいるのは、軍事スリラーかスパイものである。
しかし(奇跡的に)日本では、本格パズラーもそこそこ生き残ってる。それは島田荘司に始まる「新本格派」の世代の作家が、多く輩出されたからである。本書はその世代の作家たち10人のアンソロジー。祥伝社文庫がミステリーやホラー、恋愛ものなどのアンソロジーをいくつも編纂していたうちの一つで、テーマは「不条理な殺人」。このテーマに近い、30~40ページほどの短編を一人一作集めたものだ。作者たちのうち僕が良く知っているのは、法月綸太郎と有栖川有栖だけなのだが、日本のミステリー界を担っている人たちである。収録順に見ていくと、
・山口雅也 昭和29年、横須賀市生まれ、早稲田大学法学部卒。
・有栖川有栖 昭和34年、大阪市生まれ、同志社大学法学部卒。
・加納朋子 昭和41年、福岡県生まれ、文教大学女子短期大学部卒。
・近藤文恵 昭和44年、大阪市生まれ、大阪芸術大学文芸学科卒。
・柴田よしき 昭和34年、東京生まれ、青山学院大学文学部卒。
いつも昭和などの元号は使わない僕がなぜそうしたかと言うと、作者たちの多くが昭和30年代生まれであることを示したかったから。かくいう僕も昭和31年生まれ、この世代の人達はある程度裕福になった時代を生き、欧米文化(含むミステリー)を違和感なく受け入れてきた。土屋隆夫や高木彬光といった先輩世代の日本ミステリーも、沢山手の届くところにあった。
僕も、もし大学にミステリー研のようなサークルがあったとしたら入っていただろうし、場合によってはしがないサラリーマンになどならず作家を目指していたかもしれない。そんな想いを感じさせてくれるアンソロジーでした。