新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

流氷の海で死にたい

 1987年発表の本書は、トラベルミステリー作家として名高い西村京太郎中期の作品。昨年「華麗なる誘拐」「D機関情報」と初期の作品を紹介してきた。1作ごとに大掛かりな仕掛けをした作品群で、ミステリーという枠を大きく広げたものと捉えている。それに比べてトラベルミステリーが中心となった中期以降は、安心して読めるものの上記の「仕掛け」は影を潜めた。

 

 見栄えはいいがカネにだらしない恋人吉岡にだまされ、両親の遺産をはたいても返しきれない6,000万円の借金を背負ってしまったOLの風見ゆう子。吉岡は別の女と行方をくらまし、絶望した彼女は「北の国で死にたい」と連絡船で函館に着いた。

 

 そんな「北斗1号」車中の彼女に近づいた男は、彼女が自殺志願であることを見抜いたうえで、100万円を手渡し「これから札幌、旭川、網走と3日間付き合ってほしい」という。その夜は定山渓温泉、次の夜は層雲峡温泉で宿泊。食事を共にし、宴会も一緒したものの、男はそれ以上のことはしなかった。

 

        

 

 層雲峡温泉に男を残したまま、彼女は網走に向かい流氷の海に身を投げたのだが、警官に助け上げられてしまう。しかも警官は「殺人容疑で逮捕する」と言った。実は定山渓温泉でも、旭川に向かう「ライラック13号」車内でも、男が殺されていて容疑が彼女にかかっていたのだ。見知らぬ男がくれた100万円は、まだ80万円ほど残っていて、それは男たちを殺して奪ったものと警察は見ていた。

 

 羽島裕と名乗った「見知らぬ男」は直ぐに見つかったのだが、彼女の証言を否定する。始めて会ったのは「ライラック13号」の中、100万円を渡した覚えはないと・・・。状況証拠はそろっているのに頑強に犯行を否定するゆう子、被害者らが東京の人物だったことから捜査協力をすることになった十津川警部・亀井刑事のチームは、吉岡なる男の死体に遭遇する。

 

 死を覚悟したゆう子の心情や、流氷の風景など、解説は「事件ではなく人間に視点をあてた傑作」と評している。ただ僕はどうしても「書き流し」の印象を持ってしまう。ゆう子と羽島なる人物の不思議な「旅行」について、ゆう子の言うことを信じるなら羽島が嘘をついていることになる。ではそれは何故、という謎を書きながら解決していったと思われるからだ。

 

 多分2時間ドラマにもなったのでしょう。初期の作品に比べると、通俗的と見ざるを得ないですね。