新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「一日内閣」を狙ったテロ

 昨日に引き続き、本書も西村京太郎の「十津川警部もの」。1999年に発表されたものだ。初期の頃の趣向を凝らした作品群と違い、このころの作品は2時間ドラマの脚本のようになった印象を持っている(大家に対して誠に失礼ながら)。

 

 昨日の「特急北斗1号殺人事件」同様、北海道が主な舞台となり、警視庁の十津川警部は北海道警の警官たちと協力して事件を追う。定山渓温泉も出てくるが、「特急北斗・・・」と異なるのは、前者が青函連絡船、後者が青函トンネルで始まることくらい。温泉ホテルで女性を呼んでどんちゃん騒ぎをするシーンも共通だが、やってくる女性は前者が芸者さん、後者がコンパニオン。12年の違いが表れている。

 

 北海道の新聞記者が、東京の高級住宅街で射殺された。記者でありながら副業で小説家もしている男で、テロを扱った小説を3冊発表している。新聞社での評価は高くなく遊軍記者なのだが、今回もテロ関係の独自取材をしていたらしい。殺傷力の強いトカレフで2発、即死だった。男の靴にメモリチップが隠してあり、とぎれとぎれの会話内容は北海道で大掛かりなテロが計画されているというもの。

 

        

 

 会話に出てきた男を追った十津川警部たちは、その男が浅虫温泉に偽名で泊り、定山渓温泉に渡ってそこをチェックアウトした後射殺されたことを知る。男には連れがいたが、連れの男も行方不明。どうもテロのターゲットは、2週間後に札幌で開かれる「一日内閣」らしいとわかる。地方経済の苦境で支持率が下がっている今の内閣が、主要閣僚を集めて地方の意見を聞くのが「一日内閣」。首相や経済関係閣僚、知事らが参加する。

 

 北海道警に「命を狙われている」と連絡してきた連れの男も、青函トンネルを走っていた寝台特急北斗星」車内で射殺されてしまった。しかしテロ計画の首謀者らしき人物は見えて来て、銃器犯罪の前科のある男も捜査線上に上る。厳重な見張りを付けるのだが、彼らは尻尾を出さず、ついに「一日内閣」の日が来てしまった。

 

 なかなか詳しい銃器(トカレフグロック、M-16、AK-74等)の説明があるのだが、銃器社会ではない日本が舞台だと、いまいちリアリティがない。政界・財界大物を巻き込んで広がるテロ事件になり、防止の重責を警視庁の捜査一課警部が務めるというのにも、首をかしげざるを得ない。面白い話なのですが、気になる点が多い作品でもありました。