新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

全共闘出身の東大教授

 今日1/21は、本書の著者西部邁氏の命日である。著者は本書を口述し校正まで終わった2018年の今日、多摩川で入水自殺を遂げる。享年78歳。50歳代のころから死に方を考えていて、何度か自殺を考えている。2014年に奥様を亡くしてから、決意を固めたらしい。

 

 著者は東大在学中は全共闘の中央執行委員、60年安保の闘争を主導した。後に横浜国立大学で経済を教え、東大に移り社会経済学者・保守の論客として大衆社会や米国文化を揶揄し続けた。「東大駒場騒動」で大学を辞め、評論家・著述家となり<朝まで生TV>の常連として舌鋒を振るった。

 

 何度か話を聞いたのだが、とにかく難しい。知識の少ない僕には、質問に正面から答えず斜に構え、分からない外国語を持ち出してケムにまく人との印象がある。結局筆者の思想については分からずじまいだったので、本書を読んでみた。書籍としても難しい言い回しや内容は同じ。かろうじて見えてきたのは、

 

改憲は当然で、自衛隊の国軍化はもちろん、核兵器保有も必要

・緊急事態条項というが、それ以上の非常事態が技術の進歩で続々起きている

・マス(大衆)迎合の民主主義はNG、理想は国民社会主義

 

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 緊急事態とは予想(アンティシペーション)できるが具体的に予測(プレディクト)できない事態のこと。非常事態とは予想も出来なかった事態で、前者がロシア軍北海道上陸なら、後者はUFOの侵略のようなものらしい。

 

 技術の中でもデジタル系は特にお嫌いのようで、電車に乗らないのはスマホいじっている奴らを見ると吐き気がするかららしい。ITの繁殖(!)によって形式化・数量化の容易な知識(学問)ばかりが発展、本当に重要な形式化・数値化できない学問がなおざりにされているとある。僕に言わせれば、技術の進歩で形式化・数値化できる分野が広がっているはずなのだが。

 

 政策に係る知識人への遺言が巻末近くにある。いくつか抜粋すると、

 

・保守が守るべきは(表層的な問題でなく)危機において平衡を保つための作法

・最も重要な実践は、(大衆ではなく)世論に働きかけること

・活字文化に未来はなく、知識人は講演・TV討論などあらゆる手段で訴えるべき

 

 だという。副題に「JAP.COM衰滅への状況」とあるように、グローバル&デジタル化した社会に幻滅しきった自殺だったようだ。うーん、僕なんか一蹴される論客です。でもAIによって復活させられるかも・・・。