新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

Air Sea Battle(ASB)はどう展開する?

 本書は元陸上自衛隊東部方面総監渡部悦和氏の、米中戦争シミュレーション。2017年発表とやや古いのだが、台湾・南沙・尖閣・南西諸島をめぐる紛争がどのように展開するかを予測、解説した書。

 

 米中両軍とも、この地域で「接近阻止/領域拒否(A2/AD)戦略」を持っている。例えば中国は、米軍の空母機動部隊を遠ざけたいと思っているということ。米国は紛争対応として「ASB」という考え方で臨む。これをどう展開するか、両軍の有利不利はどうかが、本書のテーマ。

 

        

 

 中国がこれらの地域で作戦行動に出るなら、まず在日米軍基地の無力化を図る。弾道ミサイル等の奇襲攻撃で、例えば嘉手納は最悪数週間機能を停止する。航空優勢は失っても、米軍と自衛隊は水中優勢は確保できる。日米軍のASBの第一段作戦は、

 

・空母を含む水上艦隊はいったん退避

・潜水艦隊で敵の潜水艦隊を排除

・地上部隊からの対空攻撃で、敵航空部隊を損耗

・航空攻撃(スタンドオフミサイル含む)で水上艦隊を撃破

・中国本土内の指揮系統を潜水艦、航空機からのミサイル等で混乱

 

 させることで終了する。第二段作戦は、安全が確保された空母打撃部隊も投入し、通信中枢、軍港なども含め、特に海空の戦力を無力化することになる。ミサイル攻撃力に優位を持つ中国軍だが、C4ISR能力を封殺されれば抵抗できない。

 

 C4ISR封殺については、サイバー攻撃も両軍は活用する。加えて中国軍はあらかじめ潜入させた工作員も含めた、あらゆる手段を使ってインフラ攻撃をしてくるとある。20世紀末に提案された「超限戦」というのがそれ。

 

 軍事シンクタンクが「軍事スコアカード」という手法を使って有利不利を計測したところ、20世紀末には米軍絶対有利だったのが、2017年には各分野で差が詰まり逆転されるところもあるという。ただ、2030年まで真の逆転はないというのが、本書の結論。しかし「あなどってはいけない」とある。最後に日本(軍)への提言。

 

・手足を縛る過度な自己規制を排除(あいては手段を選ばない)

・統合作戦能力強化

・過度な軍事アレルギーを払拭

・中国の航空、ミサイル攻撃への耐性強化

・強靭なC4ISRを構築

・継戦能力を保持

 

 現在、これらの対応はそれなりに進んでいるようで、ちょっと安心です。でも2030年には本当に戦争になるかも。