新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

革新技術と医療の進化

 2019年発表の本書は、中部医学会の重鎮齋藤英彦氏が編者となり、日本の医療技術・システムの最前線を8人の著者と共に紹介したもの。編者は名古屋大学医学部教授が長く、著者の何人かも名古屋大学と関係ある人達だ。

 

 名古屋大学は最初に医学部・工学部が設立され、その後文系学部が追加されている。中部地区の医療を含めたインフラ整備のための人材育成が、当初の任務だった。本書には4つの革新技術と、海外支援を含む医療システムの方向性が5件紹介されている。僕が興味を惹かれたのは、革新技術の方。

 

 最初に取り上げられているのは「サイバニクス」、ある種のロボット技術で介護職員が腰を傷めないように装着する電動メカなどを指す。AI・IoT技術などの発達で、ヒトのデータを読み取ってその動作をスムーズに補完することもできる。

 

 またiPS細胞の開発やゲノム解析に、スーパーコンピュータが果たした役割も紹介されている。ヒトゲノムは30億文字あると言われ、塩基1文字の解読に1990年代には1ドルかかった。2003年には全解読は終わるのだが、何に使えるかはさっぱり不明のまま。2000年代には「金食い虫のゲノム研究」と白眼視されていた。

 

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 しかしゲノム一つ一つではなくシークエンスの解析ができるようになって、個人別の治療法、薬が効くか否かなどが分かるようになった。2010年前後にスパコンを使って解析し、1年間に1億円以上の電気代を使って研究が進んだとある。今では解析のほとんどをAIに頼り、効率は飛躍的に向上している。

 

 またナノテクノロジーの医療適用についても、半導体技術とのコラボレーションで飛躍的な発展があったという。再生医療、診断ナノバイオデバイス、ナノ薬物送達システム(DDS)、分子イメージングの4研究が相乗作用をもたらした。この章の著者は医師ではなく、工学部教授。医学部・工学部の緊密な連携が、もたらした成果である。

 

 ややシーズ指向の編が多く、どんな技術ができたか、どうやってできたかが主体で、患者の側から見て何が良くなったのかが少ないのが玉に瑕。それでもiPS細胞で失明を回避できた話などは、大いに参考になった。

 

 今年は僕もちょっとした手術を受け、成功したので生き返った気分になる経験もした。より健康寿命を延ばす研究開発、もっと進めていただきたいものです。