新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

太平洋架空戦記1991

 本書は、以前「Redsun & Blackcrossもの」の「フリードリヒ大王最後の勝利」を紹介した佐藤大輔の短編集。かつて(1991年)天山出版から出されていた作品群に、新作を加えて文庫化したもの。太平洋戦争のIFを、思い切り詰め込んでいる。

 

 今にして思えば、太平洋戦争は日本軍にとって絶対に勝てない戦いだった。しかし子供向けの戦記から、旧軍人の執筆した(ちょっとバイアスにかかった)ドキュメンタリーなどを読んで分かったつもりになっていた20歳ころの僕には「こうやれば勝てたかも」という思いがあった。

 

 大学時代にシミュレーションゲームと出会い、それを確認するために太平洋戦争もののゲームを沢山買った。そしてやってみたのだが・・・。本書の作者は僕より8歳も若く、多分同じ思いでゲームデザイナーの道を歩んだのだろう。そんな作者の「太平洋架空戦記」が本書である。

 

 日本軍は年功序列人事の硬直性や、電子兵装など技術の欠如、精神主義による非合理性、そもそもの資金不足など多くの問題を抱えていた。それを少し改善したらどうなるか、本書では、

 

1)作戦編

真珠湾での第二次攻撃決行

・ミッドウェー作戦の逆転勝利

・レイテ沖、栗田艦隊が反転しなければ

石原莞爾の北進論に海軍が同調すれば

 

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2)兵器編

・ロケット機「秋水」とジェット機橘花

・88mm砲搭載の重戦車「二式重戦車改」

・高速3万トン級大型巡洋艦「高千穂」

 

3)幻想編

・6発160トン超重爆撃機「富獄」

・11万トン級超大型戦艦「播磨」

 

 のように、新兵器も交えて架空戦記の世界を描いている。いずれのエピソードも、なぜこのような重戦車・超戦艦・超重爆等が検討されたのか、なぜ実現しなかったのかも含めて史実を述べた上でのIF論議である。そのような変化によって歴史はどう変わったのかも、各編の最後に短く紹介されている。例えば、レイテ沖で日本軍が善戦し米海軍が弱体化したせいで、日本はソ連の衛星国になってしまった・・・というような話。

 

 しかし表題作「目標、砲戦距離四万」のように、日米英の巨大戦艦が撃ち合うシーンは、海戦ゲーマーならずとも興奮するだろう。戦艦「大和」の後継「紀伊」級、さらにそれを上回る巨艦「播磨」は50センチ砲9門を備えている。多分表紙の中央がそれだろう。うーん、ゲームに熱中した時代を思い出させてくれる書でしたね。