2015年発表の本書は、警察官僚で危機管理分野を担当する警察大学校の樋口晴彦教授の危機管理論。多くの危機管理の実例を示した、実践的な書だ。ただ後半は太平洋戦争や幕末の戦争指導の例が多く、あまり新味はない。それよりも前半、福島原発事故など昨今の危機管理例や、それらから導き出される「教訓」はかなり興味深い。
いくつか象徴的な啓示もある。
「日本人には自助のセンスが欠けている」
というのはその典型。福島原発事故当時、筆者は家族を九州に逃そうとした。最悪の事態を想定したからである。きっと切符を取るのは大変だろうと思ったのに、平時と同様すぐに予約出来た。原発事故の報道を政府が抑制したからではなく、市民に自らの判断で危機を回避しようとするセンスがなかったのだと筆者は言う。
中にはやや逆説的な主張もある。例えば、事業継続計画(BCP)は緻密ではいけないという。精緻なBCPを練り上げても、実施できなければ意味がない。タイムスケジュールなども、その通りに行く可能性の方が低いので「失敗して当たり前」の感覚で行えとある。圧巻は、危機管理マニュアルを「机上の空論」にさせない見直しポイント。
・夜間、休日など人手不足の時の対応をベースにせよ
・対策本部の要員が管理職ばかり、責任者が情報システム部長はNG
・対策本部の、通信手段、電力その他インフラには余裕を持たせる
・電話回線の数、ケータイ充電設備など細部のチェックも怠らず
・現場本部には、充分な情報処理能力を持たせ、適切な職位の人を配置
・現場(例えばプラント)内に、通信のできないエリアがないように
かなり細かな指摘だが、これが題名の「悪魔は細部に宿る」の意味。
本筋とは違うが、世界に一番普及している機器としてAK-47の例が挙げてある。全般的に遊びのある設計で、それゆえ3/4世紀経っても使用されている。本当に役に立つ機器(や組織)は、遊びがあるものだと言うことのようです。